竹に開けられた大小の丸い穴からもれるやわらかな光。紀の川市の老人ホームで施設長を務める介護福祉士の谷正義さんは昨年夏、「和歌山県竹あかり実行委員会」を立ち上げ、竹を使ったあかりで周囲を優しく包むイベントを開く。「竹あかりには心を照らされているような不思議な力があります。使う竹は放置されて荒れ放題の竹林から切り出したもの。邪魔物扱いされる竹が、人を喜ばせる物に変わるのは素敵なことですね」と笑顔を見せる。
介護福祉士の谷正義さん〜実行委立ち上げイベント続々
谷さんが竹あかりに出合ったのは昨年8月。現在、小学3年の娘と広島へ旅行した際、偶然、開かれていた竹あかり作りワークショップに参加した。「発達障害がある娘はその少し前にいじめを受け、元気をなくしていた。私自身も人間関係に悩んだ3年前、うつ病になったことがありました」。初めて会う谷さん親子にも親切に教えてくれるスタッフたち。「人と人のつながりのあたたかさが竹の優しいあかりと重なった。和歌山でもこんなイベントを開きたいと思ったんです」
そこから行動は早かった。早速、実行委を立ち上げ、3ヵ月の準備を経て、11月に「竹あかりのおまつり」を紀の川市粉河の観音山フルーツガーデンで実施した。イベント当日までに11回開いたワークショップの参加者300人以上が手作りした竹のあかりが会場を幻想的に彩った。
今年5月には田辺市のビッグUでも開催。また、毎年6月上旬に紀の川市貴志川町の諸井橋上流で開かれているゲンジボタル観賞会とコラボし、観賞池へ続く道沿いに20~30㌢の竹あかりを並べて足元を照らした。2㍍以上ある大型のものも約20本設置。貴志川ゲンジボタルを育てる会の田代範義会長は「写真を撮っていく人が多かった。ホタルだけでなく、もう一つの光のアートを楽しんでもらえました」と喜ぶ。
材料の竹は、放置されて伸び放題の竹林から切り出したものだ。昨年の第1回イベント用に竹を提供した観音山フルーツガーデンの児玉典男会長は「何本か切り出し、竹林内に光が入るようになると、竹は外へ増えていかない。利用することで農地への侵入を防ぐことができます」と歓迎する。
年内は8月4日㊐~9日㊎に粉河寺、11月23日㊏~12月25日㊌に観音山フルーツガーデンで開催。同ガーデンでの初日には竹のあかりに包まれての結婚式を開催する計画で、現在、参加するカップルを募っている。
直近では、笹に願いを吊す七夕の7月7日㊐とその前日の6日㊏、和歌山城西の丸広場で開く。谷さんがイベントに込めた願いは〝皆さんの悩みが竹のあかりで少しでも小さくなりますように〟だ。「悩みが小さくなって心に余裕ができれば、周りの人にやさしくなれるはず。『だれかを喜ばせたい』『地域が明るくなってほしい』、そのために自分にできることは何か? そんな思いがわいてくるきっかけになれば」──。
いつ、どこで起きてもおかしくない自然災害が発生する前から、各地の人をつないでおこうと、全国で取り組まれている「TAKEピースプロジェクト」にも賛同する谷さん。根っこでつながる竹のように、竹のあかりで人々の心をこれからもつないでゆく。
写真上=「イベントを通じ、竹あかりと人のあたたかさを感じてほしい」と谷さん、同下=様々な模様の竹あかり。中にLEDやろうそくを入れて照らす
(ニュース和歌山/2019年6月15日更新)