近代文学の祖、坪内逍遙(1859〜1935)が創作した舞踊戯曲「和歌の浦」を地元で再演する「舞踊戯曲〝和歌の浦〟再演プロジェクト」が立ち上がった。夫婦の鶴が降り立った和歌の浦で、子どもや漁師が歌い踊る姿を描いた戯曲を演じ、故郷を見直す。6月17日には初企画として講演会を実施した。再演実行委員会の西本直子さんは「楽器、舞台、衣装と和歌山バージョンをつくれれば。和歌の浦のことでみんなで遊んでもらえる場をつくりたい」と望んでいる。

坪内逍遙の舞踏戯曲 現代へ〜再演プロジェクトが始動

 明治から大正にかけ和歌の浦の隆盛を支えた旅館あしべ屋。その別荘は妹背山に現存し、建築士の西本さんは館主として近代木造建築のたたずまいを残そうと保存活用を模索している。

 そんな中、2015年、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館であしべ屋本館の写真を発見。これをきっかけに逍遙の台本と、台本に触発されて箏曲家の中島雅楽之都(うたしと)が作曲した『和歌の浦』の楽譜が見つかった。

 これをもとに翌年から毎春、「名勝和歌の浦桜まつり」で箏曲家、西陽子さんの門弟らに相談し、妹背山別荘で部分再演を開く。全3楽章10曲の組曲で約45分必要なのを毎回1〜2曲ずつにし、約10分披露している。演奏する清水利美さんは「雅楽のような展開で始まり、場面により曲も楽器も大きく変化します。演奏会の時は詞を解説し、楽しんでもらえるようにしています」。

 西本さんはこれに加え、「和歌の浦」を通じて和歌の浦を考えようと、5月に再演実行員会を結成した。先月は第1弾として早稲田大学坪内博士記念演劇博物館招聘研究員の濱口久仁子さんを招き、講演会「坪内逍遙と和歌の浦」を開いた。

 濱口さんは映像をまじえ逍遙の足跡をたどり、「『和歌の浦』は同じ旋律を変え展開する波のような曲。洋楽とのコラボで新しい日本舞踊を生もうと試みたのでは」と解説した。また戯曲の一節「ほがいにそがいに…」など地元の方言や山部赤人の和歌がかけられていると会場から指摘があり、わいた。濱口さんは「地元でやるとやはり発見があります。楽曲は逍遙の時代には早すぎた。三味線、歌にバイオリン、ピアノと多様な楽器の融合は今こそ見たい」と期待する。

 現在、活動の目標は10月4日㊎〜6日㊐のきのくに音楽祭だ。6日午後3時からあしべ屋妹背別荘で、NHK・Eテレ「からだであそぼ」に出演したダンサーで、ダンスカンパニー「コンドルズ」を主宰する近藤良平さんと西さんが共演する。これに先立ち7月21日㊐には和歌の浦で近藤さんによるダンスワークショップも開催。西さんは「昔のものを現代によみがえらせると知らないことが出てくる。何が出てくるか、わくわくします。日本だけでなく世界に向け新しいアートが発信できれば」と願う。

 西本さんは「様々な形での上演を目指し、作ったり、読んだり、身体を動かしたりする中で、いろんなジャンルの人で新たな和歌の浦を見つけたい。逍遙がなぜ和歌の浦を題材にしたのかもテーマの一つ。あわてず楽しみながら行いたい。和歌の浦が好きな方の参加を待っています」と話している。

 近藤さんのワークショップは無料、事前申し込み必要。西本さん(073・422・7432、kronosclear@gmail.com)。

写真=初企画の講演会でも戯曲の一部を箏で演奏した

(ニュース和歌山/2019年7月13日更新)