和歌山県内に残る中・近世の城跡を調べ、その成果を地域に紹介してきた和歌山城郭調査研究会(和城研)が発足30年を迎えた。代表の白石博則さん(59)は「かつては見向きもされなかった城郭の注目度が近年は上がっている。白浜町や上富田町などでは、私たちが調査した城跡を国や県の史跡にしていこうとの動きが生まれています」と胸を張る。8月25日㊐には「とっておき和歌山の城」と題し、30年間の研究成果を披露する。
和歌山城郭調査研究会 8月25日 踏査の成果披露
和城研は現代表の白石さんと、初代代表で現在は顧問を務める水島大二さん(72)が1989年に立ち上げた。調べるのは和歌山城のように天守閣のあるものだけではなく、防御性のある館や屋敷、堀のある施設、近世の台場など。これら県内の城は中世のもので約800、近世を合わせると1000近くになる。
現地調査した上で、城の特徴が分かるよう縄張り図と呼ばれる図を作成。2002年以降は毎年、エリアを決めて調査し、翌年に地元で講座を開いて、地域住民に調査結果を紹介してきた。
紀州藩が編さんした地誌『紀伊続風土記』や市町村史に載っている中世城郭を中心に調べてきたが、文献に掲載されていないものも約10ヵ所確認した。その一つが和歌山市須佐・吉里の南山城。文献や伝承が全く残っておらず、白石さんは「1585年の羽柴秀吉による紀州攻めの際に築かれたのでは」と推測する。
現在、会員は20〜80代の約90人。歴史の専門家もいるが、多くは城が好きな会社員や主婦、大学生たちだ。会員が研究者になったケースも。新谷和之さん(34)は高校時代に入会し、昨年3月までは和歌山市和歌山城整備企画課で学芸員、現在は近畿大学文芸学部特任講師を務める。「高2の時、白石代表に城跡から地域史を読み解く方法を教わり、この経験から大学で日本中世史を勉強したいと思うようになりました。現場を見て調べる大切さは和城研で学びました」と喜ぶ。
30周年を迎えた今年、まず1月に会員20人が執筆した『戦国和歌山の群雄と城館』を戎光祥出版から発行した。8月に開く記念企画「とっておき和歌山の城」では白石さんが中世、水島さんが近世の城について話す。和歌山城、田辺城、新宮城の最新調査結果を紹介する水島さんは「和歌山城の天守はコンクリートで建て直されたが、江戸時代と同じ姿に忠実に再現されている。全国の城の中でも胸を張れることを強調したい」と意気込む。
和歌山県内30市町村中、28市町村は調査済み。白石さんは「まず全市町村の調査を終えた上で、今までは少し駆け足の部分があったので、周辺にある寺社などとの関係も含め、面的に地域の歴史を掘り下げてゆければ」と描く。水島さんは「和城研の存在は全国の城郭仲間にも浸透してきた。これまで同様、一般の人に関心を持ってもらえるような取り組みを続けてもらいたい」と期待する。
30周年記念企画は8月25日正午、和歌山市湊本町の市立博物館で実施。講演前に特別展「雑賀衆と鷺ノ森遺跡─紀州の戦国」を見学。最後は受講者を交えて意見交換する。参加無料だが、特別展入館料400円が必要。申し込み不要。また、『戦国和歌山の群雄と城館』はA5判、297㌻。2808円。主要書店で取り扱い。
写真=かつて城があった場所で会員が住民らに解説する
(ニュース和歌山/2019年7月20日更新)