紀の川市粉河の粉河産土神社で暮らす黒猫のタンゴが〝招き猫〟として活躍している。毎日、放課後になると子どもたちが訪れ、タンゴを世話し、境内の掃除や社務所の留守番を担当。宮司の中山淑文(よしふみ)さん(72)から昔遊びを教わるなど、タンゴを通じたふれあいの輪が広がっている。中山さんは「1匹の子猫がつないだご縁を大切に温め、子どもたちが大人になっても気軽に遊びに来られる場所になっています」と喜ぶ。
粉河産土神社の黒猫人気〜宮司の仕事手伝う子も
子どもたちが多く集まるのは学校が早く終わる水曜の午後。にぎやかな声が聞こえると、境内の一角に設けられた小屋からタンゴが顔を出す。「ミャー」と鳴きながら散歩をせがみ、子どもたちは神社から散歩に連れ出したり、ブラッシングをしてあげたりと思い思いに世話をする。粉河小5年の渡邉大実(はるみ)さんは「散歩が大好きでいつも帰りたがらずに大変ですが、普段は大人しく人懐っこい女の子。ひざの上で寝てくれる時もあり、癒やされます」とほほえむ。
タンゴが神社で暮らすことになったのは4年前。生後間もないころ、粉河寺の参道に捨てられていたところを子どもたちが保護した。他の生き物に襲われないようにと、それぞれ親に相談したが飼えず、中山さんの元へ。場所は神社を使って良いが、世話は子どもたちが担当する約束で神社の飼い猫になった。
世話のために訪れる子どもたちに、中山さんは竹で笛や竹とんぼ、バランストンボなどの作り方を教えるようになり、子どもたちは中山さんを「ぐうじい」と親しみを込めて呼んでいる。時に境内の草むしりを手伝い、小学生だけでなく、猫好きの中高生も訪れ始め、高校生は昨年の台風で傷んだ社務所の修繕を手伝った。粉河中2年の中山涼子さんは「社務所の留守番をしていると、参拝に来た地域の人とコミュニケーションが増えました。同世代は神社にあまりなじみがありませんが、タンゴに合いに来る友達もいます」と笑顔を見せる。
社務所は、宿題をする子、書道の練習をする子とすっかり子どもたちの居場所になった。中山さんは「タンゴが神社に来たころは、ほ乳瓶でかいがいしく世話をして命の大切さを学びました。上級生が下級生に勉強を教える様子もみられ、学年間の交流にもなっています」と目を細める。
こうしたふれあいの中、神社の仕事に興味を持つ子が出てきた。毎週末に行っている巫女(みこ)の舞を習う子や、神事の際に宮司が読み上げる祝詞(のりと)を暗記する子が現れるように。粉河中2年の道江優妃さんは「巫女の衣装にあこがれていたのと、上品な所作を身につけようと習い始めました。神社はのんびりした雰囲気で心が落ち着きます」と魅力を語る。
高校時代に通っていた子が県外へ進学しても、季節の節目には顔を出す。中山さんは「タンゴの世話や日々の遊びの中で自立心や思いやりを育んでいます。子どもたちが将来、自分の子を連れて来るような故郷の居場所になれば」。和歌山県神社庁那賀支部長の村田実さん(68)は「過疎化で氏子が減る中、各神社が色んな取り組みをしている。粉河の取り組みは、生かせる部分を生かした好例で、神社を支え、若い世代が興味を持つようになっているのは貴重」と見守っている。
写真=中山宮司(左)に見守られ子どもに懐くタンゴ
(ニュース和歌山/2019年9月28日更新)