失明の恐れと闘いながら抽象画を描き続けるアーティストがいる。〝ソウルアーティスト・コア〟こと和歌山市の岸部功尚(かつなり)さん(44)。数々の挫折の中で絵筆をとり、40歳で本格的にスタート。しかし、事故で左目の視力をほぼ失い、右目もその危機にある。それでも「目が見える限りは」と作品を生み続け、来年1月にはタイで開かれる「ジャパンエキスポタイランド」へ出品。世界進出への夢を大きく描いている。
和歌山市の岸部功尚さん〜失明の危機と闘い創作
赤、青、黄、オレンジと鮮やかな色を使った不定形なフォルムがカンバスの上でうねる。自分自身の内面をイメージして描いた作品のタイトルは「ヒトトナリ」。目の前の人をイメージし、即興でペンを走らせるのが得意だ。「一番大きく影響を受けたのは、街の壁に缶スプレーで絵を描くグラフィティアート。唯一無二の表現者を目指しています」
20代のころはDJを目指して渡米するも、挫折し24歳で帰国。結婚し、外装工事の仕事を始めた。30代後半のある日、めまいを覚えるようになり、病院で過労によるうつ状態と診断された。「離婚して借金があったが、仕事は休職を経て退職。負の連鎖でした」
そんな時、『最強のふたり』という一本の映画との出合いが転機となった。主人公の黒人男性が描いた絵が高い評価を受けるシーンを見て「自分にもできるかも」とスケッチブックを手にした。
1年後、腕試しに参加したアートムーブコンクールで入選。40歳になったのを機に絵だけで生活すると決意した。即興で描き、その場で売るライブアートオークションに3回参加。作品は完売する人気だ。
活動は順調に思われたが、今年7月、不慮の事故で左目の網膜がはがれる大けがを負った。右目の網膜にも傷がつき、医者から「悪化すると両目とも失明の恐れがある」と告げられた。絶望と不安がのしかかったが、「岡本太郎の『壁は自分だ』との言葉に奮い立たされました」と話す。
その中で今エネルギーを注ぐのが、1月に開催されるタイでの「ジャパンエキスポタイランド」だ。日本文化を発信し、3日間で50万人以上が来場するアジア最大級のイベント。自らのブースに和歌山の企業をPRする作品も展示する計画で、現在、地元の企業へ声をかけている。「協力してくれた企業をイメージした作品を並べ、海外に和歌山をPRしたい。アートで貢献できれば」。このほか来年は、台湾、フランス、ベトナムの展覧会にも出品する。
岸部さんが師と仰ぐイラストレーターの絵青こと横地あおいさんは「だれよりも個性が強く、力がみなぎっている。さらに技術を磨けば世界で勝負できるアーティストになれる」と評価する。
岸部さんは「目の不安があり、一筋縄ではいかない挑戦だが、立ち向かう勇気が大切。和歌山から世界に、そして和歌山の素晴らしさを海外の人にアートで受け取ってもらいたい」。熱い思いを抱く魂は、世界を鮮やかに彩っていく。
(ニュース和歌山/2019年11月30日更新)