「この練り天、ずっと探してたんよ。あんたとこのやったんやなあ」──。品出し中の産直市場よってって狐島店で客に声をかけられたのは、5月に実家が営むかまぼこ店を引き継いだ中塩路伸子さん(41、写真)だ。「和歌山市中央卸売市場で創業して60年以上。お客さんからの〝一度食べたら忘れられない味〟との言葉を胸にやってきた。長く愛された味を絶やさぬよう守っていきたい」と意気込んでいる。

中塩路伸子さん 産直市場で人気

 1957年に中央卸売市場で中塩路さんの大叔父が創業した丸中かまぼこ店。看板商品の練り天ぷらは、ふわふわ食感と口の中に広がる優しい甘みが特徴だ。決め手は卵白と保存料などの添加物を入れないこと。タネがやわらかいため、型を使わずに一つずつ手で形を整えて揚げる。77年には父母が店を譲り受け、工場のみを岬町に移転。2005年に同市場から撤退した後は、七曲市場や岬町周辺の業者に卸していた。

 中塩路さんは高校卒業後、店の手伝いに専念。結婚後、実家を離れたが31歳で離婚し、看護師になる勉強をしながら再び家業を手伝い始めた。

 天ぷらの味を守りたいとの気持ちが芽生えたのは8年前。父が肺炎で倒れた時だった。当時働いていた岬町の病院に天ぷらを差し入れた際、和歌山から来ていた同僚に「この味知っている! 幻の天ぷらや」と言われた。「父が作れなくなったら和歌山で生まれたこの味は途絶えてしまう。私が何とかしなければと思いました」

 昨年、両親が病で相次いで倒れたのを機に看護師を辞め、練り天ぷら作りに専念。今年5月、社長に就任し、屋号を「中塩路の天ぷら」に変更し、6月、狐島のよってってで販売を始めた。完売する日も多く、中塩路さんは「懐かしい味だと喜んでくれる人が多く、4代に渡ってうちのファンだと言ってくれる方もいます。今後は配達や、ネット販売にも力を入れたい」と張り切っている。

 詳細はインスタグラム「中塩路の天ぷら」で検索。

(ニュース和歌山/2020年6月20日更新)