全国で大雨による河川のはん濫が相次いでいる。そんな中、和歌山大学災害科学・レジリエンス共創センターの秋山演亮(ひろあき)教授が低価格で設置できる水位計を開発した。安さに加え、水位データをスマートフォンからだれでも簡単に入手できるのが特徴。「機器の仕組みは簡単で、設置もその後のメンテナンスも各地域の皆さんでできます。〝地産地消〟で全国の河川に広がってほしい」と自信を見せる。
和歌山大 秋山教授 安価な水位計開発〜西山東の和田川で実証試験
秋山教授によると、行政が設置する本格的な水位計は1機1000万円以上、簡易型でも100万円以上かかる。今回開発したものは10〜20万円程度で作れる。弁当箱程のサイズで、下部から出た超音波が水面で跳ね返り、戻ってくるまでの時間で水位を計測する仕組み。データは少ない電力で広域をカバーする無線通信方式を使って近くの基地局へ飛ばし、インターネットを介して無料通話アプリのLINEやメールで情報を届ける。
「この水位計で分かるのは、避難の目安となる数字」と秋山教授。「体調が悪くなると親がおでこに手を当てて熱がないか、病院に行くかどうか判断するのと同じで、行政が出す水位と異なるかもしれないが、住民が自宅周辺の状況を把握し、行動につなげるのに役立ててもらいたい」と話す。
2年前、御坊市中心部を流れる斎川(いつきがわ)に設置し、昨年から本格的に運用試験を行う。結果、24時間、10分おきに水位を計り続け、単三電池2個で半年間使えることが分かった。
今年6月には和歌山市の西山東地区連合自治会と協力し、和田川と支流の前代川など5ヵ所に設けた。長年、水害に悩まされてきた西山東地区だが、和田川の水位計は地区内になく、隣りの岡崎地区に1つあるだけ。宮脇茂連合自治会長は「これまでは自分たちで川まで行き、水位を目視しなければならなかったが、離れた場所にいながら数字で分かるようになる。だれもがデータを知れるのもありがたい」と喜ぶ。
今後、装置の信頼性を検証すると共に、どの水位に達した場合、避難が必要か、どのように情報発信すれば住民に分かりやすいかなどを詰めていく。宮脇会長は「流域が床上浸水することも多かった前代川の拡幅・付け替え工事が先日終わった。今回の水位計の設置も含め、住民一人ひとりの防災に対する意識を向上させる機会にしたい」。
秋山教授は各地域の自治会や自主防災組織が設置する形で増やしていきたい考えだ。「設置費は各種助成金でまかなえ、運用費はほとんどかからず、メンテナンスもまちの電気屋さんで十分できる」と説明。「県や和歌山市、御坊市は私的な水位計の設置と周辺地域住民へのデータ公開を認めてくれた。おそらくこれは国内初。これを機に日本中へ広がる可能性もある」と期待している。
相談は和大災害科学・レジリエンス共創センター(073・457・8503)。
写真上=秋山教授が片手で持つのが開発した水位計、同下=和田川に架かる菖蒲橋の欄干に設置された水位計
(ニュース和歌山/2020年7月25日更新)