和歌山市の中村千里さん 失明後、折り紙生きがいに

 「しゅりけん おりがみ おもちゃ あげるよ もっていってね」──。南海和歌山市駅近くの駐輪場、こう書かれたはり紙のすぐ近くに折り紙で作った手裏剣やかぶとが並ぶ。「指先の運動として認知症予防のために作っているんですよ」と笑顔で話すのは中村千里さん(75)。作り始めたのは、くも膜下出血で両目が見えなくなったのがきっかけだった。

 10年前のある日、突然激しい頭痛がした直後、じわじわ視界が狭まり、数分間で全く見えなくなった。すぐ病院へ行くも、医師から「もう両目が見えるようになることはない」と宣告を受けた。

 その後はテレビの音を聞いたり、読み上げ機能のついた携帯電話を触ったりして過ごす日々。6年ほど前、娘の清美さんから「折り紙でも折ってみたら?」と提案された。元々、手先が器用なこともあり、清美さんが折り方を説明するだけで、スイスイと折っていった。

 千里さんは「子どものころ以来、何十年と触っていなかった。作り始めると楽しくて、たまに遊びに来るひ孫と一緒に折り紙で遊んでいました」。清美さんは「病気の後は、毎日ボーっとしている時間が多かったけど、折り紙を始めてから母の表情が明るくなりました」と喜ぶ。

 作品は店の前に置き、道行く子どもたちが自由に持ち帰れるように。特に手裏剣を作るのが楽しく、これまでに2万個以上作った。最近ははかまをつけた奴人形や、オリジナルの刀も作っている。千里さんは「『ありがとう』と大きい声で言ってくれるのがうれしい。1歳のひ孫がもう少し大きくなったら一緒に遊べるよう、また頭の健康のため、これからも続けたい」。

(ニュース和歌山/2020年9月5日更新)