店主が営業時間外や定休日に店舗を希望者へ貸し出す〝お試し出店〟のスタイルが目立ってきた。昼間だけカフェを開きたい、試験的に店を営業したい人向けに貸す例が多く、飲食業だけでなく美容サービス業でも行われている。初期費用を抑えられ、気軽にトライできることから、起業を望む若者の選択肢の一つになりつつある。
初期費用抑え手軽に挑戦〜貸す側はすき間時間活用
普段は静かな夜の中心地の一角で、にぎやかな笑い声が聞こえる。和歌山市新通にあるカフェ&バー「ウナ・ラマ・デ・リコ」は、定休日の日〜火曜日、「フーガズコーヒー」と名前を変えて営業する。カウンターに立つのは關風我(せきふうが)さん(24)。3月、名古屋市から移住してきた。「間借りして趣味のコーヒーを提供しています。旅が好きなので、自分のライフスタイルを優先し、営業時間や休みを決めています」。
店舗の所有者も、元々の店にはない人の流れを歓迎する。リコを管理する宮原崇さん(36)は「定休日に店を開けてくれると、いつでも営業しているとの印象を持ってもらえる。売り上げの一部を店に入れてもらえるのもありがたい」と喜ぶ。
6月、同市卜半町に複合ショップ「マーケットワカヤマ」をオープンした仁尾祥吾さん(27)は、2年間、間借りでコーヒースタンドを営業した後に独立。今は貸す側に転じた。現在は月1回、チャイ専門店とスナックに1階のカフェスペースを貸す。
スペースを借りているチャイ専門店「チャイトナ」の宗形里央さん(24)は、3月から大阪で間借りできる場所を探していたが、新型コロナウイルスの影響でうまく進まなかった。「そんな時、仁尾さんに声をかけてもらった。和歌山のお客さんはすごく距離が近く、リピーターが増えています」と手応えを感じる。「今は本業のかたわら、趣味という感じ。軌道に乗れば、キッチンカーを買って、出張チャイ店を続けたい」と話す。
仁尾さんは「一番大事なのは貸す側、借りる側双方の信頼関係。才能ある若手を自分の店でどんどん紹介し、若者がいろんな文化に触れられる場所にしたい」と意気込む。
店舗シェアは飲食店に限らない。同市駿河町の音楽スタジオ「ツインスターズ」では、店の一角でネイルサロンが昨年10月から営業している。楽器を練習する男性を待つ間、女性はネイルアートを楽しめると、口コミで評判が広がる。スタジオオーナーの恩賀講平さん(48)は「異なるジャンルの組み合わせにより、予想してなかったお客さんのニーズを発掘できた」と驚く。
和歌山大学経済学部の足立基浩教授が調べたところ、店舗の間借りは10年ほど前から大阪を中心に増加。「今年に入り新型コロナに対応する形として必要性が増した。飲食スペースを必要としないテイクアウト専門店の開業希望者に、夜のみ営業するバーや居酒屋などの飲食店が、昼間に調理場を貸すケースが増えている」。さらに「間借りは家賃や設備費用などのコストを抑えられる。新しい挑戦者が生まれやすくなる環境は大事で、まちづくりとしての可能性は大きい」と見ている。
写真=「店を始めたいなら、まず間借りで勉強するのがおすすめ」と關さん
(ニュース和歌山/2020年10月24日更新)