生まれ育った和歌山市雑賀崎に戻り、今年、漁師になった池田佳祐さん(32)が、妻の美紀さん(33)と共に漁家民泊開業へ準備を進めている。改修した古民家に宿泊しながら、とれたての魚介類を使った料理のほか、磯遊び、漁船クルージングと漁師町でのひとときを満喫してもらう。佳祐さんは「過疎化が進む雑賀崎を昔のようににぎやかな地域にするのが夢。休漁日にも積極的に稼ぐスタイルを若い人たちに発信したい」と意気込んでいる。
雑賀崎の漁師 池田佳祐さん〜和歌山県北部初 漁家民泊開業へ
代々、漁業を営む雑賀崎の一家で生まれた佳祐さん。漁から戻った父や祖父の手伝いをしてきた一方、両親からは「漁師にはならなくていい」と言われて育った。
大学卒業後は一般企業に就職し、東京や大阪で暮らしていた。5年前、帰省し、漁について話していた際、父の勝彦さん(60)から「陸(おか)に上がったんやから、海のことは気にせんでええ」と言われた。佳祐さんは「雑賀崎で〝陸に上がる〟とは、漁師以外の仕事をすること。海から遠いところに来たんだと悲しさを感じました」。
これを機に、国内外の漁業を調べ始めた。その中で、休漁日や漁獲量が少ない時期に漁家民泊で収入を得ている漁師がいると知った。「水産資源を守るため、雑賀崎では年90〜100日しか漁に出ない。参考になる」。昨年は漁業体験や船上でのランチといった観光サービスに漁師が取り組むイタリアのタラモーネを視察した。
漁師に反対だった親を説得し、今年1月からは勝彦さんと共に漁へ。一方で漁家民泊立ち上げに向け、雑賀崎の古民家2軒を購入した。母屋では食事を提供し、そこから65歩の距離にある離れに宿泊してもらう。離れの改修費用のため、10月からクラウドファンディングを実施。すでに目標額の50万円を突破した。
提供する料理は、10月〜5月はアシアカエビ、5月〜10月はハモがメーン。美紀さんは「アカハゼ、ガンゾウビラメといった知名度はないけれど、おいしい魚介類も味わってほしい」。磯遊びや海水浴、漁船での双子島クルージングも企画する。勝彦さんは「漁師は慣れるまで3、4年はかかる。また、漁家民泊は漁師と違い、客相手の仕事になるので、無理せずに頑張ってほしい」と見守る。
和歌山県水産振興課によると現在、県内の漁家民泊は串本町の1軒のみ。また、1963年に1万179人いた県内の漁業就業者は2018年に2402人と4分の1以下にまで減っている。同課は「県内だけでなく、全国的に後継者が減少する中で漁師になり、さらに漁家民泊にもチャレンジする方が出てくるのはうれしいこと」と歓迎する。
漁家民泊は来春からの予定。美紀さんは「結婚し雑賀崎に住み始め、1人で買い物に行けず、毎日、1人で夕食を食べているお年寄りがたくさんいると知りました。地域の方、観光客とも利用できる食堂もつくりたいですね」とにっこり。佳祐さんは「漁業で稼げると知ってもらえれば、やりたい、継がせたいと思う人は増えるはず。海と共に生きてきた雑賀崎の生活を次の世代へ、100年後へとつないでいければ」と描いている。
クラウドファンディングは11月30日㊊まで。目標額を超えた分は食堂の立ち上げに活用する。詳細は「漁師のまちやどプロジェクト」。
写真=宿泊施設とする離れについて話し合う池田夫妻
(ニュース和歌山/2020年11月28日更新)