万葉集の収録歌100作品以上に曲をつけた和歌山大学名誉教授の故・打垣内正さん(1907─95)。没後20年を迎えたのを機に、長男の尚雄さんが冊子『万葉を歌曲集に 打垣内正の生涯─異色の作曲家、その軌跡』を発行した。尚雄さんは「父は和大を退官後、万葉歌が詠まれた場所へ実際に足を運び、その風景を見て、地元の方の話を聞いて曲を書いていました。音楽への情熱を持って生涯を貫きました」と懐かしむ。
海南市出身の正さんは地元の日方高等女学校や和歌山師範学校などで教壇に立ち、和大教授や奈良文化女子短期大学教授を歴任した。作曲家としても活躍し、生涯通じて作ったのは約230曲。県内小中学校の校歌や海南市歌、和大で今も歌い継がれる寮歌『花の霞に』のほか、1890年に串本沖で遭難したトルコ軍艦エルトゥールル号の追悼歌も手掛けている。
奈良文化女子短大に移って以降は、万葉歌に曲を付ける活動をライフワークとした。「1年の始めに地図を広げ、『今年はこの地域を回るんだ』と計画を立てていましたね」と尚雄さん。完成した110曲の楽譜は『万葉の紀州路』『万葉の大和路』など5冊の歌曲集にまとめている。
今回の冊子ではこうした正さんの歩みをまとめた。また、正さんの弟で、同じく万葉文化を愛した画家、雑賀紀光さんについても紹介している。編集を担当したのは尚雄さんと親交の深い元新聞記者の篠原正さんで、「1300年ほど前に詠まれた万葉歌のうち、100作品以上に曲を付けた人は他にいない。1年掛けて残っていた資料をひもときましたが、その生き方は非常に魅力的でした」と語る。
非売品。B5判、278㌻。希望者に先着順で配布する。詳細は尚雄さん(072・366・2055)。また、県立図書館など公立図書館に設置される予定。
写真=発行した長男の尚雄さん(左)
(ニュース和歌山2015年2月14日号掲載)