2015042508kumanoa

 23歳から熊野古道を歩き、撮影を続ける海南市の写真家、大上敬史さん(56、写真)が4月10日、『熊野古道伝説紀行 熊野を駆ける』を出版した。33年間で出合った道中の伝承や言い伝えに写真を添えてまとめた。大上さんは「1000年続いた熊野参詣の舞台となった和歌山は、珍しい自然や名所があり、風土や祭り、伝承は奥が深い。熊野詣は日本の歴史と原風景をたどる旅。既存の観光ガイドでは伝えられない魅力に光を当てました」と話している。

 熊野古道を研究する芝村勉さんのコラムをニュース和歌山で見たのをきっかけに、趣味のカメラを手に歩き始めた。当時は今のような観光マップがなかったため、道中で会う住民の案内や関連書籍を頼りにした。写真はモノクロフィルムで、1日の本数を決めて撮影。「案内表示もなく、だれも通らないので道がなくなっているところがありました」。

 大阪から熊野への道中、よく耳にしたのが、数々の伝説。安倍晴明や平清盛といった歴史上の人物が残した出来事に留まらず、地域の伝統行事やほこらに残された物語もあり、いずれも故事に習った教えや戒めが込められていた。「日本人の根底にある精神は、口伝や伝説となって表現され、伝承されてきたのだと思います」。道中に散りばめられた物語を伝え残そうと筆をとった。

2015042509kumanob 津波から地域の人々を守った地蔵、熊野参詣中の僧が息絶えて舌だけが経を唱えていた話など、口伝で分からなかった部分は文献を調べ、推察も盛り込んで137本にまとめた。また、長年撮り続けた写真を添え、現地の雰囲気を分かりやすくした。

 2004年に世界遺産登録されて以降、訪れる人は増加した。健康や癒しのために歩く人が多いが、大上さんは「何気なくある石仏も、その意味や歴史を知れば見え方が変わる。それらを一つひとつ丁寧に拾い、自分と対話しながら歩くことが混迷する現代にこそ必要だと思う。平成の熊野詣に活用してもらえれば」と望んでいる。

 1728円。フルカラー157㌻。A5判。県内主要書店で販売。大上さん(073・482・7389)。

写真=和歌山市薬勝寺にある奈久知王子址(あと)

(ニュース和歌山2015年4月25日号掲載)