パチッ、パチッ、パチッ…。6畳1間に響く将棋の駒を打つ音。和歌山市里にあるハイツの1室で開かれる岩出将棋教室は、岩出市の三嶋聖奈さん(25)が将棋仲間と立ち上げた。三嶋さんは19歳で本格的に将棋を始め、和歌山県女流王者決定戦で5連覇を果たした永世女流王将。
「将棋の面白さや奥深さを知ってもらい、愛好者を増やし、県内の棋力向上につなげたい。和歌山の将棋界を盛り上げる一助になれば」と力を込める。
子どものころから祖父と将棋でよく遊び、19歳で大会に出場したのをきっかけに和歌山青棋会に入会した。メンバーは男性が多く、女性は年配者が中心で、年長者に指導を仰ぎながら腕を上げた。「初めは全く勝てませんでしたが、自分の世界で好きなことができるのが楽しくて続けることができました」
大会で勝ち進み、運営を手伝い始めたころ、「将棋を習いたい」と男の子が相談に来た。以前から、子どもたちに将棋の楽しさを知ってほしいと思っていたため、将棋仲間の井辺正規さん(47)の協力を得て2012年に教室を立ち上げた。
将棋教室が少ない岩出市に開設しようと「岩出将棋教室」としたが、条件の良い物件が見つからず、現在の場所へ。ハイツの1室で、長机にゴム板の将棋盤を並べ、プラスチックの駒で始めた。生徒は2、3人と少なかったが、1から教えた生徒が大会で優勝すると、ホームページや口コミで知られ始めた。
現在は、平日夜と週末に開く教室に年中~40代の約20人が通う。初級から中級が2段の三嶋さん、上級は4段の井辺さんが指導し、1人の指導者が複数人の生徒に一斉に教える講義型の教室が多い中、1対1の指導にこだわる。「お決まりの指し方にとらわれず、その子に合わせた指し方を指導するのが一番です」と三嶋さん。
知人の棋士に足つきの将棋盤を借り、壁には生徒たちの目標を書いた木札を並べ、トイレには詰め将棋の問題を貼っている。小1の狩場由雲(かりばゆくも)くんは「詰め将棋が好き。将来は将棋の先生になりたい」、中2の黒岩怜桜(れお)さんは「将棋をする友だちがいなかった。初めての大会は全敗でしたが、今は勝てるようになりました」とうれしそうに話す。
教室のほかに、指したい人が席料を払い、自由に利用できる道場としても開放。リピーターの小林洋平さん(27)は「他の道場は棋力がないと入りづらかった。ここはアットホームで初心者も来やすい」と喜ぶ。三嶋さんは「女性や子どもも来てくれるようになりました。将棋が好きで楽しいという気持ちを大事にしたい」と瞳を輝かせる。
レッスン料や申し込みは同教室ホームページ。
写真=「将棋を楽しむ場に」と三嶋さん(手前)
(ニュース和歌山2015年9月19日号掲載)