中国北東部と近辺で繁殖し、日本などで越冬するナベヅルが11月初旬から和歌山市内で確認されている。九州で冬を過ごすことで知られるが、市内に留まるのは珍しく、野鳥観察者は「大きくて美しい鳥。市内での越冬が期待できそう」と注目している。
ナベヅルは、中国やロシア、モンゴルで繁殖し、主に日本で越冬する。体長約1㍍、羽を広げると、幅2㍍になる大型のツルで、体は灰色、首から上が白く、頭頂部は赤い。世界には約1万羽いると推定され、環境省レッドリストで絶滅危ぐⅡ類に指定。個体の約9割が鹿児島県出水市で冬を越すが、西日本では和歌山や三重、徳島、高知で飛来情報がある。特にここ5年は和歌山に姿を見せることが増えており、一度に20羽が来た年もあった。
今年、和歌山市内に現れたのは11月初旬。紀の川の中洲に9羽の姿が確認された。この群れは紀の川を拠点に西和佐や岡崎の田畑を行き来し、3日には西和佐の田畑で、日本野鳥の会県支部の中川守支部長ら複数の愛鳥家が撮影に成功した。中川支部長は「3家族で子どもも3羽いました。仲が良くて見ると感動します」と話す。
紀の川にすむ国の特別天然記念物コウノトリの観察を続ける土橋進さんも流域の中洲で、コウノトリと一緒にいるナベヅル9羽の姿を認めた。17日早朝には、ナベヅル13羽が紀の川近くから山口地区方面へ飛び立つ姿を目撃した。土橋さんは「最初の9羽と同じ群れなのか分かりませんが、滞在は長期になっています。越冬も期待できるのでは。コウノトリも長く留まっていることからも紀の川流域が鳥にとって暮らしやすい環境になっていると思います」と見守る。
一帯ではカワウとアオサギを対象とした有害鳥獣捕獲事業が行われ、愛鳥家にとって懸念材料だったが、ナベヅルやコウノトリの飛来を受け、和歌山市は今年度の中止を発表した。中川支部長は「みんな喜んでいます。一般の観察や撮影もきちんと鳥との距離をとってほしい」と話している。
写真上=11月3日、 和歌山市内の畑に現れたナベヅル
同下=コウノトリと一緒にいる姿も
(ニュース和歌山2015年11月21日号掲載)