実りの秋、旬を迎える味覚の一つ、サツマイモをエネルギー問題解決の切り札にと意気込む研究者がいる。近畿大学生物理工学部(紀の川市西三谷)の鈴木高広教授(56)だ。目下、大量栽培と都市ガス代わりに使えるメタンの発酵技術の確立に向け、研究を進める。「環境に優しいエネルギーで貯蔵できるものとしてはイモが最適。将来は水力や風力、地熱などと併用し、日本のエネルギーをまかないたい」と描く。
学内の一角。収穫を控え、ツルが伸びた鉢が置かれているのは、下段にも日光が届くよう配慮された三角棚。面積あたりの収穫量を増やそうと、鈴木教授が発案した〝空中栽培〟法だ(写真)。
同学部の教授となった2010年、大気中の二酸化炭素増加を抑制できる植物由来のバイオマス燃料に関する研究を開始。様々な野菜を検討する中、サツマイモに行き着いた。「全国で栽培でき、戦時中に作られていたことからも育てやすい。ジャガイモのように種芋でなく、ツルで増やせるのも大きい」
生きたのは40代のころの経験。勤めていた化粧品メーカーで、紫外線防止効果を高める技術研究をしていた。「紫外線は手強い。なぜ植物は大丈夫なのか?」。調べる中、植物は紫外線のバリア効果があるポリフェノールやリグニンを作り、光合成に必要な光を抑えて吸収していることが分かった。「イモは晴れた日の30%の日照量で育つ。空間を活用すれば、より多く育てられる」。草丈が低く、土の中にできるサツマイモは、鉢やプランターを重ねて育てるのに適しており、低コストで大量栽培が見込めた。
畑への地植えでは1平方㍍あたりの収穫量は2・5㌔程度だが、現在は10㌔まで達成した。さらなる栽培技術向上に向け、福島、滋賀、愛媛、沖縄で実証実験を進める。紀の川市でも紀の川スマートファーム協議会の協力で、3年前から取り組む。同会の上野健さんは「化石燃料を燃やせば二酸化炭素が増えるが、バイオ燃料はその心配がない。今年も500株ほど育てています」。
では、イモをどうエネルギーに活用するのか。当初は発酵液を蒸留し、ガソリンの代わりとなるエタノールにしたり、乾燥させてチップ状にして火力発電に使ったりする方法を考えた。今、鈴木教授が注目するのは、イモを発酵させ、メタンガスを作り出す方法。「メタンは都市ガスを使う家庭用発電機でそのまま利用できる。発電に加え、湯を沸かすのにも使え、効率が良いんです」
鈴木教授によると、日本が燃料を購入するため、海外に支払う額は毎年、20兆円前後。「イモエネルギーが実現すれば、このお金を国内の農家に回せます」。上野さんも「温暖化防止に役立つ上、今後の農業振興のためにも大事な取り組みだと思います」と語る。
鈴木教授が当面の目標に掲げるのは、1平方㍍あたり20㌔を栽培する技術、メタン発酵させて電気と熱をつくる装置の開発だ。「そのモデルをつくり、普及させること。取り組み始めて6年、着実に前に進んでいます」
エネルギー問題、農業問題の未来にサツマイモで光をともせるよう、知恵を絞る日々は続く。
(ニュース和歌山2016年10月1日号掲載)