初の〝18歳選挙〟となった今夏の参院選挙で争点とされた給付型奨学金。政府は「ニッポン一億総活躍プラン」に検討を盛り込み、文部科学省が議論を進める。和歌山県議会が給付型奨学金制度創設求める意見書を政府に出すなど他の先進国並みの充実を求める声が高まる中、和歌山県内では県が奨学金返還助成制度をつくるなど動きがある。大学進学にかかわる奨学金の現状をみた。

 奨学金は、独立行政法人の日本学生支援機構が大学生など、都道府県が高校生を対象とし、ほか市町村、民間、学校のものもある。一部給付型もあるが、貸与が大半だ。和歌山県教委の修学奨励金貸与には高校生向けの奨学金、大学生・短大生・専門学校入学予定者向けの進学助成金がある。進学助成金(現在募集中)は、下宿する学生で、世帯で生計を主とする人の所得が747万円以下。無利子で、10万〜50万円まで5段階で貸与し、昨年度は182人が活用した。利用者数は横ばいだが、近年、返済が滞り、奨励金の未収金は昨年末で7500万円。3年前から債権回収を民間委託している。

 県教委はこの中、大学生等進学給付金を新設した(今年度受け付け終了)。保護者が県内に住み、市町村民税所得割が非課税で、学生がUターン志望なのを条件に選考を経て、年間40人に1人あたり年60万円を給付する。日本学生支援機構の第1種奨学金採用候補者なのも条件。同機構の第1種奨学金(無利子)と第2種(有利子)の両方を受け、後に返済に困る例が多く、県生涯学習課は「併用せずに済むよう考えた。経済的理由で進学を断念せず安心して学び、将来は和歌山を担ってほしい」と望む。

 民間奨学会も数多い。竹中養源会は国内で最2016101501_syougakuも歴史ある団体のひとつ。広川町出身の事業家、竹中源助(1877〜1958)が1940年に創設、1000人近くの学生に無利子で奨学金を貸してきた(現在募集中)。3地域にブロック会を設け、年1回、奨学生とOBの懇親会を開くのが特徴で、事務局長の坂口總之輔さんは「家族的なふれあいを大切にしています。活躍するOBも多く、交流は学ぶところが多いはず」。反面、資金の目減りは課題で、「大卒は就職に困らないという時代でなくなり、支払い猶予を求める人が出てきた。難しい時代になった」と語る。  民間には奥田育英会、南葵育英会、脇村奨学会など給付を行う団体がある。大桑教育文化振興財団は93年に始め、現在は学校推薦を通じて選考し、毎年13人に年額36万円を給付(今年度受け付け終了)。同財団事務局長でもある坂口さんは「国は給付型奨学金創設を模索するが、国費を必要とするほか、貸与型を実施している奨学会は影響を受けるだろう」と指摘する。

 また、地方創生の一環とする県の奨学金返還助成制度が登場した。県の選考をへた学生が地元製造業、情報通信業40社に入り、3年働くと、県が国とつくる基金と就職先企業が奨学金返還に相当する額上限100万円までを助成する。  和歌山で働く理工系人材の確保が狙いで、2018年卒業予定の大学生らを対象に現在募集している。定員30人。県労働政策課は「地元での就職が選択肢にあるなら登録するつもりで気軽に申し込んで」と力を込める。

 文科省は、給付型奨学金制度を2018年度の入学生向けに導入を図る方針だが、対象や成績基準設定など課題は山積している。和歌山出身の奨学金アドバイザーで『奨学金見極めガイド』の著書がある久米忠史さんは「国の給付型奨学金は福祉的な色合いが強く、専修学校も対象にする方向で、第一歩になりうる」と評価。「ただ財源が示されず、民間奨学会の懸念はもっとも。学ぶ意欲のある学生を支援する奨学金本来の意味に立ち返ると、奨学金を出すべき大学の質や、高い学費の問題と課題は多い。要は、奨学金を受ける本人が将来の自分の問題として、自分でしっかり調べることが大切」と話している。

写真=竹中養源会は奨学生とOBの交流を年1回開いている

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 県の進学助成金=11月11日締め切り。高校を通じ申し込む。詳細は県生涯学習課(073・441・3663)▽県内就職希望者奨学金返還助成=10月31日締め切り。詳細は県労働政策課(同441・2807)▽竹中養源会=来春大学入学希望者対象。月1万〜3万円。卒業後、無利子で返済する。10月31日締め切りで、11月25日(金)に面接と作文の試験。希望者は同会(同422・0803)。

                      (ニュース和歌山2016年10月15日号掲載)