和歌山市出身で、立命館大学1年の西岡正織(まさお)さん(18)が10月、11月に行われた日本棋院中部総本部棋士採用試験本戦で1位に。夢に見た囲碁のプロ棋士として来春、第一歩を踏み出す。県出身で日本棋院所属のプロ棋士合格者が出るのは、実に75年ぶり。「何度も落ちて挫折しかけましたが、応援してくれる周りの方々の期待にこたえられ良かった。まずは文武両道でなく、文〝碁〟両道を目指し、大学の勉強と両立したい」と目を輝かせる。

 

和歌山市出身 立命館大1年 西岡正織さん 念願のプロ棋士へ

 

囲碁

 5歳の時、人気漫画「ヒカルの碁」の影響で囲碁を始めた西岡さん。アマ2段の力を持つ父・靖人さんと打ち、小学校入学後は和歌山囲碁子ども教室に通った。小4の2月、プロの大淵盛人9段の内弟子となるため、単身、神奈川県へ。小5になった4月、プロ棋士を目指して日本棋院本院の院生となった。

 小6で和歌山へ戻り、日本棋院関西総本部に移籍。その年からプロになるための採用試験に挑み続ける。しかし、壁は厚く、プロになれる1枚の切符はなかなか手にできず。和歌山工業高校1年だった2013年はわずか1勝差で8人中2位と涙をのんだ。院生をやめた翌年は予選で敗れた。

 昨年は大学入試に集中するために受けず、2年ぶりの挑戦となった今年。8月~10月の中部総本部棋士採用試験予選は19勝1敗で、21人中1位で通過した。6人が2回総当たりで競う本戦は、6局目を終えて3勝3敗と首位に2勝差をつけられた。「自力での1位はなくなったが、目の前の対局だけに集中しよう」と気持ちを入れ替え、この後、4連勝で盛り返した。最終的に7勝3敗で2人が並び、予選上位の西岡さんが1位となり、プロ棋士に内定。和歌山県出身者が日本棋院のプロ棋士に合格するのは、1942年の故・伊藤弘さん以来で、75年ぶりとなる。

 これまで手が届かなかったプロの世界。今年、その扉をこじあけた要因を「環境が変わったのが大きい」と西岡さんは話す。和歌山にいた今春までは、1人でインターネットを使って勉強することが多かったが、春以降は囲碁の強豪、立命館大学で今年夏のアマチュア名人戦全国大会を制した部員らと対局を重ねた。

 小学校時代、和歌山囲碁子ども教室で指導した日本棋院和歌山支部世話役の佐田勝典さんは「棋士採用試験の本戦まで残るメンバーはほとんど力に差はない。その中で勝ち取ったのは精神力の成長があったからでは」と目を細める。佐田さんの記憶に今も鮮明なのが、小4の時の急成長だ。「ハンデをつけながらほぼ毎週、対局していました。アマチュア5段から7段に上がる力をつけるのに通常は1年ほどかかるのですが、彼はわずか1ヵ月。驚きでした」

 西岡さんがプロとして歩み始めるのは来年4月。父、靖人さんは「3年前のチャンスはあと1勝届かず、成し遂げられなかった。苦しい時期もありましたが、あきらめないで本当に良かった。将来は本因坊や名人などタイトルを目指してほしい」とエールを贈る。西岡さんは「プロになるとどれだけ忙しくなるのか、まだ分かりませんが、大学の勉強と囲碁、どちらもおろそかにならないよう頑張ります。将来はやっぱり大きなタイトルを獲りたいですね」と胸を膨らませている。

(2016年12月10日号掲載)