住民の生活を支援する民生委員が今年、誕生から100年を迎えた。民間の奉仕者であり、かつては主に生活保護が必要な人と行政との連絡係として活動し、地域で頼られてきた。しかし、近年は地域福祉推進の担い手として、業務が子どもや子育て家庭の支援、独居高齢者の見守りへと広がったことで生活全般の支援者の意味合いが強くなり、負担が増している。さらに高齢化が進み、将来の担い手不足が懸念され始めた。

地域密着で生活支援 業務増えるが担い手不足

 「暑いねぇ。体どうですか?」と岩本百合子さん(81)に話しかけるのは、和歌山市和歌浦地区で文具店を営む民生委員の津守貞行さん(67)。お年寄りの見守りに、声かけは欠かさない。

 岩本さんは「近所の人に声をかけてもらうのが一番。兄弟はいますけれど、そうそう会えないから」とほほえむ。津守さんは「お年寄りを対象に食事会と振り込め詐欺の勉強会を開き、つながりを深めています」。

 民生委員は1917年、岡山県で貧困者の相談相手を設けた済世顧問制度が原点。非常勤の特別職公務員で、守秘義務を負う。給与はなく、通信費など活動費が支給されるだけ。47年からは児童委員をかね、支援対象は乳児、高齢者、障害者へと広がった。

 かつては生活保護が必要な人の相談に応じ、行政に情報を提供することが業務の主。70年ごろから、寝たきり高齢者や妊娠している女性の状況把握、孤独死高齢者の実態や認知症者の介護実態の調査も任され始めた。

 海南市亀川地区の妻木茂さん(68)は、保護を必要とする人を、相談に当たるケースワーカーと一緒に訪問する。生活保護受給については、昔はまず民生委員に相談があったが、今は本人が行政に申請に行き、民生委員との面談を促されることが多い。相談に乗る中で「信頼関係を築き、暮らしぶりや家族状況を気にかけてきました」と話す。

 一方、近年は生活保護関連業務以外に生活困窮者の自立支援、高齢者や子どもの見守り、災害に備えた要支援者の把握、課題を抱える子どもの家庭訪問と、福祉全般に広がる。妻木さんは「行方不明になる高齢者や、虐待が疑われる子どもが増え、業務は多くなっています」と明かす。

 また、個人情報の開示が制限される現代、どんな人がどこに住み、どんな支援を必要とするのか分からない地域も増えた。民生委員を担当する和歌山市高齢者・地域福祉課は「災害など緊急時を考えると、地域情報に明るい民生委員は、存在意義が大きい」という。

 必要性が高まる民生委員だが、和歌山県の定数は2697人で、6月末現在2659人が活動中。大幅に数を割ってはいないが、紀南で定数に満たない地区が目立つ。

 委員の高齢化も問題だ。ここ10年で平均年齢が5歳ほど上がり、今は65歳になった。定年が75歳のため、次のなり手を見つけるのが課題。加太地区の佐谷美津子さん(67)は「地区に9人いる委員のうち60代後半が8人。自分たちが定年すると次がいなくなってしまう」と不安を口にする。

 反対に、若い住民が多い地区は全般に関心が低い。貴志地区の明渡一眞さん(74)は「新興住宅地だと地縁がなく、適任者を探しにくい。まず理解を得ること」と説明する。

 社会保障法を専門とする和歌山大学経済学部の金川めぐみ准教授は「民生委員は地域のボランティアとして機能する、世界的に特異な制度。近隣関係が薄くなる現代、生活困窮者が地域での孤立を避ける上でも、さらに重要さを増す」と活動に期待を寄せる。

 存在意義は大きいが、行政も委員確保に抜本的な解決策を見つけられない中、担い手不足はさらに深刻さを増してくる。

写真=地域の高齢者に声かけする津守さん(右)

(ニュース和歌山/2017年7月8日更新)