2008年、脳出血による言語障害で一時、歌声を奪われ、さらに昨年、白血病に侵された和歌山市のジャズシンガー、さつきさん(51)が11月、復帰ライブに臨む。小学生の娘、そして夫の支えを受け、6ヵ月に及ぶ抗がん剤治療を乗り越えた。「娘と夫にありがとう。そしてジャズという音楽にありがとう」──。感謝を胸に、最も輝けるステージへ戻る。

ジャズシンガーさつきさん 11月に復帰ライブ

 同市生まれのさつきさんは、プロのジャズシンガーとして10年以上、東京や横浜で活動。40歳になった06年、出産を機に故郷へ戻った。2年後、激しい頭痛に襲われ、意識が戻ったのは3日後。手術は成功していたが、右手と右足が動かない。歌手だった記憶もない。そして、歌うどころか、声すら出なかった。

 その後、懸命のリハビリに打ち込んだ。右手足はマヒが残るものの、少しずつ動くようになった。そして歌声も取り戻し、歌手活動を再開。CDを2枚発表し、県内外で精力的にライブを展開した。また、14年からは毎年5月に「ジャズハート」と題し、有名音楽家を招いてのイベントを片男波公園で開いた。

 3回目のジャズハートを終えて間もない昨年6月、健診を受けた病院で「白血球が少ない」と伝えられた。後日、再検査し、宣告された病名は急性骨髄性白血病。「ドラマで見た知識ぐらいしかなく、助からない病気だと思いました。でも、先生に『今は不治の病じゃない』と聞き、病気と闘おうと決めました」。7月、入院生活が始まった。

 準無菌室での孤独な抗がん剤治療は想像以上の苦しさだった。髪の毛は抜け、40度の高熱が出て、激しい吐き気に襲われた。「何よりつらかったのは、娘に会えないこと。途中でやめる人もいるそうですが、私は『娘と会いたい』『もう一度、ジャズを歌いたい』との思いだけでした」。5度目の抗がん剤治療を終えた今年1月、待ち望んだ退院の日を迎えた。

 活動復帰コンサートは東京、横浜、そしてふるさと和歌山の3ヵ所で開催。和歌山では、京都コンポーザーズジャズオーケストラや、ヴァイオリニストの牧山純子さん、そしてさつきさんの母校で、今は娘が通う今福小学校のリコーダー・ピアニカ隊と共演する。京都コンポのリーダーで、県出身の谷口知巳さん(53)は「さつきさんと初めて会ったのは3年前の片男波。エネルギーに満ちあふれた人というのが第一印象でした。今回はさつきさんのエネルギーを何倍にもして、皆さんに伝えられれば」と張り切る。

 大病からの2度目の復帰を目前に、さつきさんは「昔はうまく歌おうとしていましたが、今は思うがままにと思っています。闘病生活を経験し、『歌うことで皆さんを勇気づけたい』との気持ちはより強まりましたね」。大好きなジャズを歌える幸せをかみしめる。

 和歌山での復帰ライブは11月18日(土)午後6時、西高松の県立図書館2階。3500円、当日4000円、18歳以下1000円。田中さん(Kakui.mutsu62@gmail.com)。

写真=2度目の復帰を目指すさつきさん

(ニュース和歌山/2017年10月28日更新)