江戸時代から続く桃の産地、紀の川市桃山町。農業全体に見られるように、近年は桃農家も高齢化が進み、今後は耕作放棄地の増加、生産量の減少が懸念されている。このような現状を受け、JA紀の里あら川の桃部会は新たな担い手を育てようと、農家が直接、栽培方法を伝授する「トレーニングファーム研修」を2年前に始めた。1期生の20代3人は10月末に修了し、桃農家として一歩を踏み出した。

JA紀の里 ベテラン農家が2年間指導 20代の1期生3人就農

 あら川の桃部会に所属する生産者はここ10年で1割ほど減り、現在365人。うち7割が65歳以上だ。2014年、会員を対象に実施したアンケートでは、今後、規模を拡大したいと答えたのが5・5%だったのに対し、縮小、あるいは離農を考えているとした農家は2割あった。当時、JA紀の里職員だった山名純一さん(62)が「〝あら川の桃〟のブランドを絶やしたくない。そのためには若い生産者が必要」と、桃農家が研修サポーターとなって、2年間技術指導するトレーニングファーム研修を発案した。

 15年秋にスタートした最初の研修を受けたのは、紀の川市内に住む阪口幸司さん(26)、榎園(えぞん)健一さん(26)、伊藤彰則さん(25)。いずれも実家は農業を営んでいない。3人とも農家で桃栽培や桃ピューレ加工などのアルバイトをしている時、新設の研修について知り、門をたたいた。

 研修サポーターには9軒の農家が手を挙げ、研修生1人を3軒が分担して受け入れた。サポーターの1人でもあり、兼業農家時代を含め桃栽培歴42年の山名さんは「桃栽培の基本は同じだが、せん定の方法など細かい部分は農家ごとに異なる。三者三様の方法を学んでもらえたと思います。3人とも若いが、農業に対して積極的でまじめに取り組んでくれました」。

 3人は秋口の肥料やり、冬場のせん定、春からのつぼみを取る作業、実の間引き、袋掛け、6〜8月の収穫と、年間を通した桃栽培を2回経験した。

 伊藤さんは「こんなに手間暇が掛かってるんだと実感でき、逆に手をかけた分だけ返ってくるのが魅力だと感じました」。また、阪口さんは「70代の研修サポーターの方から『毎年、1年生』との言葉をいただきました。自然相手で、毎年、何が起こるか分からないからこそ、そう思いながら桃作りにのぞむことが大事だとの話は心に残っています」と振り返る。

 2年の研修を終えた3人はそれぞれ、11月から約50アールの桃畑を借り受け、農家として歩み始めた。榎園さんは「まず桃から始め、収穫時期の異なるミカンやカキの勉強もしたい気持ちがあります。自分たちが教えてもらったように、将来、若い人を育てていけるようになることが目標です」と力強い。

 研修後も相談に乗る山名さんは「天候や自然災害のリスクがありますが、そんな中でも基本となる日々の管理をかかさなければ、その成果は必ず実ります。農園に足を運んで、木をしっかり観察することです。栽培に必要な技術を身に付け、向上心を持って取り組み、この地域をリードする生産者になってもらいたい」とエールを贈る。

 現在、来年春から受け入れる2期生を募集中。18〜43歳対象。研修中、国の「農業次世代人材投資事業」に申請し、審査を通れば年間150万円が給付される。詳細はJA紀の里営農支援課(0736・77・0810)。

写真=研修サポーターの山名さん(左)にせん定方法を教わる1期生3人

(ニュース和歌山/2017年11月25日更新)