和歌山市三葛地区で、地域の地蔵にまつわる史料をまとめようと、中村正美さん(72、写真右)が活動している。同地区は市街地の開発や道路の改良に合わせて、文化財や歴史的な史料をどう共有し残していくかを課題にしている。「住民に自分の住んでいる町に長い歴史があると知ってほしい」と熱を込める。

 中村さんの父、正寿さん(故人)は郷土史家で、中村さんは高校生だった1962年、同地区の熊ヶ崎地蔵堂の調査に参加した。当時は郷土史学に関心がなかったが、定年後、正寿さんが残した史料や論文から興味を持ち、江戸時代、三葛や紀三井寺の船着き場で使われた青石の分布や地形の研究を独学で始めた。昨年、活動を知った自治会から地域の歴史について講演を求められ、地蔵に関する調査に取りかかった。

 8月中旬から1ヵ月間で三葛北端の延命地蔵、紀三井寺大門そばの地蔵など7ヵ所を調べ、現在の地図と50年前の地図で位置を比較。住宅地の造成による区画整理を乗り越え、多くが同じ場所に維持されていることが分かった。住宅が密集する三葛の北東部では、30年前に宅地開発で行き場をなくした4体の地蔵を住民が三差路の一角に集め、イスを設置して憩いの場としていた。

 成果は先月、自治会の集まりで報告。普段通学路で地蔵を見かける子どもたちは「昔からあんなところにあったの?」と目を丸くし、年配の住民からは「もっといろいろなことが知りたい」との声が上がった。自治会長の辻本朝治さん(68)は「三葛地区は『紀伊国名所図会』に名が残り、歴史的な史料は多い。住民の力で掘り下げ、発表の場を設け共有していけたら」と描いている。

(ニュース和歌山/2017年12月9日更新)