高野山に伝わり、途絶えかけている赤紫蘇(あかじそ)を和歌山の特産品にしようと、紀の川市西三谷の近畿大学生物理工学部・堀端章准教授と海南市高津の矢田農園が共同研究を進めている。すでに特有の香りと薬効成分を生かした紫蘇茶を製造した。生産量が少ないのが課題で、量産技術の研究と機能性を高めた品種開発に向け、研究資金を公募中。堀端准教授は「高齢化が進む中、体への負担が少ない農作物として広めたい」と意気込む。

近大・堀端准教授と矢田農園 研究資金公募し浸透図る

 紫蘇は縄文時代から食べられてきたが、薬用紫蘇(赤紫蘇)は遣唐使により大陸から伝わり、京都と和歌山に分かれたとされる。京都系は比叡山を中心に柴漬けのような食品の着色、風味付けに使われて全国に広がり、高野山系は薬種問屋が種を農家に提供し、全量を買い上げて古くは生薬の材料に、現代も市販薬に使われている。

 ここ十数年、中国産の薬用紫蘇が出回り、国産紫蘇の需要が激減。薬種問屋、生産農家とも姿を消す中、2007年に矢田農園が最後の薬種問屋から種を譲り受け、栽培を続けてきた。

 堀端准教授が成分検査をしたところ、高野山に伝わる薬用紫蘇は、血糖値の上昇を抑え、抗アレルギー作用などがあるとされるロスマリン酸に加え、一般の赤紫蘇にはほとんど見られない香り成分、ペリルアルデヒドとリモネンが多く含まれていることが判明。これらの特徴を生かした商品開発を進め、香りが消えない殺菌処理方法や最も香りが良い収穫期を調べ、2年前に紫蘇茶を完成させた。販売する有田市の花野食品、花野知香さんは「リピーターが増え、試しに買った人がまとめ買いしてくれるようになりました。梅紫蘇の味をイメージされがちですが、塩分不使用で、身体に良いと喜ばれます」。

 他の産地に見られない特徴を持つ紫蘇だが、生産量アップには課題が多い。商談会で多くの企業が興味を示すものの、矢田農園の矢田清さんと農家仲間の3軒で収穫できるのは年500㌔程度。また、紫蘇は雑種が生まれやすく、交雑で薬効成分が失われる可能性がある。矢田さんは「1本から採れる葉が少なく、シソ科の雑草との交雑を防ぐため周囲の草刈りに手間がかかる。中国産と価格で比べられると太刀打ちできない」と語る。

 これらをクリアするため、クラウドファンディングで研究資金を募集。集まった資金は、天候に左右されないビニールハウスの建設と、その中で安定的に高品質の紫蘇を大量生産できる方法の検討、このほか、高野山に自生する同種の紫蘇を探して交配させ、より機能成分の多い紫蘇の開発に充てる。

 将来は品種登録し、地元農家に広める考えで、堀端准教授は「地域固有の産品は他の産地との競合を避けられ、地域農業発展の重要な足場となる。商品価値を高め、梅、ショウガ、山椒と並ぶ県特産の薬用植物を目指す」。矢田さんも「休耕田で栽培し、紀の川筋の特産品にしたい。ブランド化ができれば、農家の収入増につながり、普及が進む」と期待を込める。

 クラウドファンディングは19日(金)まで、インターネットで受け付け。一口3000円からで、金額により紫蘇茶がもらえ、葉摘み体験もできる。紫蘇茶は花野食品HPで販売。堀端准教授(horibata@waka.kindai.ac.jp)。

写真上=薬用紫蘇を栽培する矢田さん

写真下=成分を調べる堀端准教授

(ニュース和歌山より/2017年5月13日更新)