和歌山県内で初めてのヤギ乳製品生産に向け、有田川町生石の牧場「生石高原やぎ暮らし」が準備を進めている。地域の目玉づくりと過疎化対策として支援を受け、京都から移り住んだオーナーの今府泰明さん(43)は、夢の実現に思いをはせながら、「まずミルクを軌道に乗せる。将来は地元産品とのコラボで特徴あるチーズを売り出し、地域貢献につなげたい」と意気込んでいる。
今府泰明さん Iターンで牧場開設
牧場は、地域の課題解決をうたう日本政策金融公庫のソーシャルビジネス支援があり、実現した。高齢化、過疎化に悩み、Iターン者を求めていた生石地区の要望に、牧場を探していた今府さんが応じたもので、ヤギ乳製品の生産は、地域の目玉づくりに合致する。
生石高原南面にある放牧地は、元は水田の約6000平方㍍。夫婦2人で世話するのに手ごろな広さだ。日当たりが良く、水も豊富。暑さに弱いヤギにとって夏涼しいのは願い通りで、「理想的な環境」と、昨年5月に生活を始めた。
秋から6頭を飼育し、現在は親4頭と子5頭。いずれ20頭ほどに増やす。飼料の牧草はオーツ麦やクローバーで、農薬を使わず安心できるヤギ乳を確保する。
今後、保健所の許可が下りれば、ミルクとヨーグルトの製造を始める。道の駅や産直市場で販売し、時機を見てチーズ生産に取り組む考えだ。
ヤギ乳製品作りを目指す今府さんが、最初にチーズを作ったのは2008年。栃木の牧場で、牛乳を原料にスタートした。勝手が分かり自ら工房を立ち上げた1年後、東日本大震災が発生。注文が途絶え、生産をあきらめた。
再び始めたのは13年春。京都のヤギ農園で働き出した時だ。ヤギの乳製品生産は牛に比べ規制が厳しい。全国山羊ネットワークによると、生産者は全国に10数軒しかなく、近畿では京都のみ。一方で、ヤギは牛に比べて小さく、扱いやすい。成分は人間の母乳に近く需要はあると読むが、生産の見込みが立たず、独立は厳しいと考えていた。
そんな中、14年末に規制が緩和された。夫婦で牧場の適正地を探し始めた時、生石から声がかかった。生石高原すすきの里加工所を運営する沼常義さん(61)が、牧場用地と加工場の提供を申し入れたのだ。地元では、元生石小学校をジュースやこんにゃく作りの加工場として利用しており、その一部を、ミルク殺菌やチーズ生産用に提供してくれることになった。
背景には、地域の事情が見える。生石には60数戸あるが、住人の多くは70代後半。沼さんは「地区として後継者づくりが課題。地域で活動する人がほしかった」と話す。
今府さんはチーズを作る際、有田川町ならではの山椒やミカンなどとのコラボ商品を視野に入れており、それには地元の協力が不可欠。また、野菜や果物とのセット販売も描き、地元貢献を視野に入れる。
互いに必要な部分を補うIターンを後押しした有田川町商工会の竹内一博さんは、「ヤギ乳製品は珍しく、生石の新産業に」と期待を寄せている。
写真上=ヤギの世話をする今府さん
写真下=生石高原の自然の中でゆったり育てる
(ニュース和歌山/2017年6月10日更新)