心室細動による心停止で苦しむ人を、だれもが助けられる社会にしたい──。そんな思いから、AED(※)が患者の元に素早く届けられるシステムを、智辯学園和歌山高校3年の岡田紗季さんが発案。3月には、身の回りの課題への対応策を発表する大会「全国高校生マイプロジェクトアワード」で日本一の文部科学大臣賞に選ばれた。今後、大学で研究を重ね実現させたい考えで、「いつ、どこで、だれが倒れてもAEDの方からやって来る、そんな時代に」と目を輝かせる。
智辯和高3年 岡田紗季さん発案 行政・企業巻き込み実証実験
岡田さんが「AEDi」と名付けたシステムは、AEDにタブレット端末とアラームを取り付けたもの。〝i〟は誘導を意味するインデュースの頭文字から取った。
使い方は簡単。患者側から119番通報を受けた消防署が、患者に最も近いAEDを遠隔操作し、アラームを鳴らすと同時に、タブレットに患者の場所を示した地図を表示させる。AEDの近くにいる人がその地図を頼りに、患者の元へAEDを届ける──。
考え始めたのは昨年1月。祖父が心筋こうそくで倒れたのがきっかけだった。一命は取り留めたが、「その場にいなかった私は、駆けつけた病院で祈ることしかできなかった」。悔しさから、今の自分にできることを模索。調べると、心臓突然死で命を失う人は全国に年間約7万人いることが分かった。2015年で見ると、このうち一般人が発見した心原性心肺機能停止者は2万4496人、この中でAEDが使われたのは1103人。わずか4・5%だった。
「日本にAEDは64万台あると言われているのに、有効利用されていない」。岡田さんが考えたその原因は3つ。まず、いざという時、患者近くの人がAEDを取りに行くことを思いつかない、思いついてもどこにあるのか分からない、そして患者がいる場所とAEDのある場所を往復しなければならない。これらを解消するために考えたのがAEDiだった。
岡田さんの行動は発案だけに終わらなかった。住んでいる有田市の市役所と消防本部に連絡し、実証実験の協力を取り付け、昨年10月に実施した。同市消防本部警防課の梅本敦夫課長は「一人で企画書を作り、交渉に来る。すばらしい行動力です」と感心する。岡田さんはさらに「より多くのデータを集めたい」とオークワにも依頼し、今年3月、2度目の実験を行った。
システム自体はまだないため、スマートフォンで代用。1回目は同市文化福祉センター、2回目はオークワ箕島店から、200㍍以上離れた場所までの時間を調べた。計5ヵ所でテストし、平均2分31秒。AEDのある場所との往復をしなくてすむため、短時間で到着できた。実際にAEDを持って走ったオークワ社長室長の郡司雅夫さんは「私自身、箕島店周辺は詳しくありませんが、地図を頼りに迷わず駆けつけられた。今、オークワ全店に置いているAEDが将来、このシステムでより多くの命を救えるようになれば非常に有意義だと思いますね」。
2度の実験で手応えを得た岡田さん。大学進学を控え、「システム構築に必要な工学を、また、アラームが鳴った時、周囲の人がどう動き、本当にAEDを持って来てくれるのか、その辺りのことを知るため、心理学も勉強しないと。大学で様々なことを学び、さらに改善を加えたい」。実現の日が待ち遠しい。
※AED(自動体外式除細動器)…心臓が細かく震え、血液を送り出せなくなる心室細動になった時、電気ショックを与えて正常な状態に戻す医療機器。2004年に医師や看護師、救急救命士以外の一般の人が使えるようになり普及が進んだ。現在、学校やスポーツ施設、商業施設など全国に64万台が設置されていると見られる。
写真=AEDの使い方を教わる岡田さん(左)
(ニュース和歌山/2017年6月24日更新)