昨年、小惑星リュウグウの砂やガスが入ったカプセルの帰還に成功した探査機「はやぶさ2」。ロマンを感じた人も多いのではないでしょうか。そこで宇宙に関連した防災、教育、観光の分野で活躍する県内の3人を紹介します。宇宙を身近に感じ、未来へ夢をふくらませてみませんか。

 

防災 災害直後の通信 衛星活用を 和歌山大学 秋山演亮(ひろあき)教授

 和歌山大学のホームページ、研究者総覧の研究テーマ欄に書かれているのは「防災・減災への宇宙利用」。そのスタートはちょうど10年前、東日本大震災だ。「宇宙関係者は皆さん、どこかで責任を感じている面があるんじゃないでしょうか?」

 西松建設勤務時、小惑星探査機「はやぶさ」や月探査計画「かぐや」にカメラメンバーとして参加。その後、宇宙開発事業団やJAXA(宇宙航空研究開発機構)の研究員などを経て、秋田大学勤務時代は学生教育用ロケット打ち上げ場の整備に尽力した。

 和大には2008年に着任し、宇宙教育研究所初代所長を務め、現在は災害科学・レジリエンス共創センターに所属。3年前から御坊市の斎川(いつきがわ)、昨年から和歌山市の和田川で簡易水位計の実証実験に取り組む。

 10万円程度で作れる水位計は弁当箱サイズで、10分おきに計測した水位のデータを単三電池2個で半年以上送り続けられる。水位情報は少ない電力で広域をカバーする無線通信方式を使って近くの基地局へ飛ばし、インターネットを介して地域住民へ。「この仕組み、通信圏外の山間部や海上であっても衛星を活用すれば利用できるんです」。センサーを土壌水分や地下水位などの計測機に変えれば、土砂災害対策に生かせる。

 今も心に引っかかる東日本大震災時のとある数字。自衛隊は24時間以内、DMAT(災害医療支援チーム)や海外からの救出チームも48時間以内には仙台に到着していた。「しかし、救出できた数が最も多いのが、72時間後。犠牲者の位置が分からず、助けに行けなかったんです…」

 災害発生後、被災者の生死を分けるターニングポイントは72時間と言われる。「助かる命を増やすためには、情報をどう収集し、届けるか。発災後、48時間までの通信が重要です。南海トラフ地震が来るまでに必ずやり遂げたい」

 10年前の宿題を解く鍵の一つは衛星の活用。試行錯誤は続く。

 

教育 若者の夢、ロケットに乗せ 県宇宙教育研究会 藤木郁久代表

 子どもたちが宇宙の魅力に触れられるようにと昨年9月、和歌山県宇宙教育研究会を立ち上げた。モデルロケットを使った体験イベントを通し、飛ぶ原理や仕組みを伝える。「空を見上げるのは夢がある。学校の勉強とは違う、専門的な学びのおもしろさを感じてもらえれば」と意気込む。

 空き缶サイズの模擬人工衛星を打ち上げる大会、缶サット甲子園。2005年から顧問を務める桐蔭高校科学部はその強豪校で、これまで2度、日本代表として世界大会を経験した。15年からは和歌山大会の実行委員長も務める。「生徒が自分たちで課題を決め、技術力や創造力を競う中で成長と学びがある。宇宙をテーマに、生徒たちの世界が広がっている」

 10年に県教委が教育にかかわる協定を結んだJAXAで、宇宙について指導できるスペースティーチャーの資格を取得した。翌年から和歌山市で毎月、小学生にロケットやロボットの仕組みを教えてきた。

 こうした動きを紀南へ広げようと、17人の教員とともにつくったのが県宇宙教育研究会だ。毎年12月、串本町で子ども向け体験会を開く計画で、昨年末の第1回では、15人が全長約30㌢のプラスチック製ロケットを作って飛ばした。「串本町の発射場でロケットの打ち上げをただ見るよりも、ロケットのことを分かって見た方がいい。今まで知らなかった世界に興味を持つ子どもが出てきた時に、体験を通じて身近に感じるきっかけを提供するのが私たちの役割」

 今年7月には缶サット甲子園和歌山大会を串本町潮岬で初開催し、今後も3年に一度、串本で行う予定だ。「宇宙を志す子が全国から和歌山に集まる日が楽しみ」と描いている。

 

観光 星空観光盛り上げたい スターフォレスト 角田夏樹代表

 「冬の大三角はオリオン座とおおいぬ座、こいぬ座からなります。2匹の犬を引き連れ猟をする狩人、オリオンの姿を描いています」──。熊野古道で浜辺を通るみなべ町、千里の浜のそばで、数千光年離れた星々について語る。

 大学で天文を学び、世界でも有数の星空を見られるニュージーランドのテカポ湖を旅行した際、満天の星に魅了され、星空が観光資源になると知った。2013年から3年半、テカポ湖周辺で星空ガイドとして働きながら、天体を観測する日々を過ごした。帰国後の17年、地元のみなべ町で星空ツアーを始めた。

 南高梅の産地として知られる町は、人口減少と高齢化が進む。地元を盛り上げるには人が集まる仕掛けが必要と考え、その答えが、歴史や文化的な価値のある熊野古道と、自身の経験を合わせた星空ツアーだった。口径11㌅の望遠鏡を使って天体を観測し、星や星座にまつわる話を紹介する。「人口が少なく町が暗いデメリットも、きれいな星を観光にすることで武器になる。昼は串本町でロケットの打ち上げを見て、夜は紀南エリアできれいな星空を見る宇宙観光ができれば宿泊とセットになり、経済効果につながります」

 新型コロナウイルスで人の移動がストップした際は、オンラインでの星空ツアーを開催。個人の参加をはじめ、企業から忘年会や新年会にとの依頼も増えた。「昔の人は星座を描き、ストーリーを生み出してきた。かつて修験者たちは星を頼りに夜の熊野古道を歩いた。星が見えないとは、こうした人類としての文化を失うことに等しい。きれいな星空を後世に残す必要がある」と考える。

 この地域を星空保護区にと昨年、活動を始めた。暗く美しい星空を守る、アメリカのダークスカイ協会の制度だ。日本では沖縄の西表石垣国立公園、東京の神津島村の2ヵ所が認定されている。今年から夜空の暗さを測定し、データ収集に取り掛かる。「アメリカのヒューストンのように、和歌山を世界中から星空や宇宙を目的に多くの人が訪れる地域へ」と夢に踏み出している。

(ニュース和歌山/2021年1月3日更新)