田中義規さん 2年かけ修復
満開の桜の下、静かに動き出したのは、かつて丸正百貨店屋上にあったミニ電車「辨慶号」。3月27日、車両完成お披露目会が和歌山市で開かれ、近所の人や協力者ら30人が電車を囲んだ。2019年秋から修理してきた田中義規さんは「作業を見守り続けてくれた人らが喜び、小さな子らが何度も乗ってくれて感慨深い。今回進んだのは20㍍だったので、もっと長く走らせたい。また新たな夢が始まりました」と笑顔を見せる。
辨慶号は2001年に丸正が倒産した後、19年夏まで同市築港の和歌山キンダースクールが管理し、園庭で遊具として活躍してきた。車体が劣化してきたため、園長の親せきである田中さんが引き取り、修理を始めた。
船具会社を営み、工場に工具を備え、機械の知識があった田中さんだが、電車の修復は一筋縄ではいかなかった。腐食が激しい車体は、銅板で一から作り直したものの、車輪や車軸を支えるパーツはサビを落とし、時間をかけて元の部品を再利用した。
最も苦戦したのは、エンジン。かつてはレールから給電し動いていたが、今回は機関車部分にシニアカーのモーターを組み込み、自走するようにした。「夢の中でアイデアが浮かび、何度も飛び起きて枕元のメモに書き込んだ。応援してくれる多くの仲間が資材や部品を提供してくれたのもありがたかった」
近くで作業を見てきた友人の野手泰行さんは「田中さんの努力のたまもの。みんなが持つそれぞれの懐かしい思い出をこの電車がよみがえらせてくれた」。近所に住む小学5年の下桐あかりさんは「ゴトゴト進んで遊園地に来た気分。トーマスみたいでかわいい」と喜んでいた。
この日、走ったのは直線20㍍のみ。構造上、急なカーブは曲がれず、直径20㍍ほどのゆるやかにわん曲したレールが必要となる。田中さんは「一周60㍍のレールを敷くのが目標。まだ多くの方に乗ってもらえる段階ではないが、みなさんの声を原動力にこれからも前進したい」と話していた。
写真=田中さんの運転する電車が子どもたちを乗せて出発進行!
(ニュース和歌山/2021年4月3日更新)