準天頂衛星「みちびき」から届く災害情報を受信し、いち早く地震や津波からの避難を呼びかける装置「WASL(ワッスル)」を、和歌山県内2社と和歌山大学システム工学部の教授らが共同で開発している。中心となる海南市のアイレス電子工業、諏訪剛取締役は「コンパクトで、音と光の両方で地震を知らせることができるのが特徴です。海辺や町の中などに設置し、もしものために情報ルートを複数備えることが重要」と話している。

産学 津波避難促す装置開発

 県内の沿岸部は南海トラフ地震発生から5〜30分で津波が押し寄せる。アイレス電子工業は2006年から自治体の依頼を受け、震度5弱以上の振動を検知した際に、避難を促すタワー型の装置を県内外に整備している。

 開発のきっかけは16年に始まった「和歌山航空・宇宙研究プロジェクト」。県内9社が集まり、宇宙に関する技術を学ぶ中、みちびきのデータを民間が活用できるようになった。勉強会の成果を形にと同社が動き始め、賛同した和歌山市の宮﨑エンジニアリングと、同学部の塚田晃司教授、満田成紀准教授が加わった。

 今回着目したのは、日本の上空から様々な情報を発信しているみちびきから届き、Jアラートにも使われる緊急地震速報と津波情報。開発した装置は、震度5弱以上の地震と津波発生に関する信号を識別し、警告音に加え、災害情報を日本語、英語、中国語で放送する。音が聞こえなくても視覚で分かるよう、強力なフラッシュライトを備えた。昨年完成した試作品(写真)は約2㌔と軽く、家や公衆トイレの壁、街灯などへ簡単に取り付けられる。

 設置地域の地震や津波に関する情報を抜き出し、装置に伝えるシステムを担当した宮﨑エンジニアリングの廣﨑清司社長は「音と光で『こっちへ逃げろ!』と誘導する、宇宙を巻き込んだ現代版・稲むらの火です」と胸を張る。衛星の信号を受信し、装置を動かす部品を作った満田准教授は「災害に強いエリアを作り出す仕掛けのひとつになれば」と期待する。

 夏の実用化を目指し、デザインの改良と耐久試験中。諏訪取締役は「WASLは“和”歌山の希望の光(Silver Lining)の意味です。災害時に皆に道を示す光になるよう、全国へ広げたい」と描いている。

(ニュース和歌山/2021年4月17日更新)