阪中緑化資材×県林業試験場 菌付き苗木作りに挑戦
高級きのこのホンシメジが育つウバメガシ林をつくろうと、上富田町の県林業試験場が進める取り組みに、紀の川市桃山町の阪中緑化資材が開発した山林用の苗木を栽培するコンテナが一役買っている。東日本大震災で防潮林の効果が再認識されたのを機に開発したもの。阪中晋社長は「しっかり根を張る落葉広葉樹の苗木をこれで育て、山に植えれば災害に強くなる。ホンシメジをきっかけに山への関心を持ってほしい」と話している。
1947年創業の同社は樹木の生産・卸業から始め、現在は植木や農業資材販売を手掛ける。
東日本大震災の半年後、阪中社長は福島県の顧客から、「防潮林に植える苗木を育てるトレーを作らないか」と言われた。16年、特許を持つ農業用育苗トレーをもとに試作を始め、2年後、山林苗用「ポットレスコンテナ」が完成。側面に空気穴をあけた縦に長いポットをつなげたもので、細い根が多くでき、地中にしっかり根を張るのが特徴だ。
一方、和歌山県林業試験場は紀州備長炭の原料となるウバメガシの林でホンシメジを栽培するため、2000年から実験を行ってきた。ホンシメジはマツタケ同様、生きている樹木と共生する菌根性きのこ。根の先端に形成した菌根から菌糸が伸び、土中の水分やミネラルを効率的に集め、樹木の生育を助ける。山の新たな使い道にと全国各地で栽培技術の研究が進む。
同試験場はこれまで県内の山19ヵ所に菌を植え、有望なホンシメジ菌を選び出した。次の段階を検討していた時、那賀振興局から「阪中緑化資材の山林苗用ポットレスコンテナを使い、苗木にホンシメジの菌を接種させては」と提案を受け、チャレンジすることに。協力を決めた阪中社長は「きのこが生える菌付きの苗木を作る実験自体が面白く、夢がある」と目を輝かせる。
一昨年と昨年、このコンテナを使い、ウバメガシとコナラの根に菌根を接種する試験を実施。半年後、菌根ができているか調べた結果、コナラは1年目が4割、2年目が6割とばらつきがあったのに対し、ウバメガシは2年とも7割以上で菌根を確認。また、ウバメガシは菌根が多いほど葉の枚数や根の量が多く、生育にも効果があることが分かった。
苗木の一部は県内の山に植え、今後の成長を調べる予定。同試験場の杉本小夜研究員は「〝香りマツタケ、味シメジ〟のシメジはホンシメジのこと。備長炭用の木を手入れする副産物で、味が良く希少なきのこが収穫できるとなれば、山に価値を見出す人が増えるはず」。昨年は掘り返した根に菌を接種する断根法にも挑戦しており、両輪でホンシメジの生える山づくりを目指す。
阪中社長は「和歌山では台風や水害対策にウバメガシやコナラのような広葉樹を植える時代が来ると予感して開発した資材。多様な植物が共存する里山再生の第一歩になれば」と夢を抱いている。
(ニュース和歌山/2022年3月12日更新)