林紀宏さん 妻のがん機に農家から転身
大空や海原を進む飛行機、船などを描くメカアート。48歳でイラストレーターの夢を追い始めたのは岩出市の林紀宏さん(56)だ。自己流ながら、機械の設計図を徹底的に調べた上で、拡大レンズを使ってネジの本数までち密に表現する。「好きな機体に、刻々と表情を変える空や海と合わせることで、躍動感を出しています」と話す。
幼いころから絵が好きで、図鑑の生き物や特撮キャラを模写して過ごした。芸大を目指したが、農家の両親や親戚に猛反対され、東京農業大短大へ。そこで妻となる明美さんと出会い、農業をしたい彼女のため、戻らないつもりだった地元で農家を継いだ。
48歳の時、明美さんが乳がんを患った。手術後、落ち込む紀宏さんに、「もう農業をしなくていいから、絵を描いて」と明美さん。その言葉に背中を押され、イラストレーターへの転身を決めた。
プラモデルの外箱に採用されるのを目指し、何年も模型メーカーへ持ち込んだ。しかし、デジタルの時代、色の調整に手間のかかる手描き作品、ましてや無名のため、門前払いされ続けた。できることをと他の作家と合同展を開く中、2年前、初めて書籍に作品が掲載された。一番待ち望んでいた明美さんは、発売日直前に亡くなった。
独りの寂しさをぬぐうように作画に集中し、昨年は東京で個展を開催。今年は模型ホビーショー出品者の依頼で戦艦を描いた。これに出版や模型販売を行うホビージャパンが目を止め、6月と8月に発売されたムック本『島風』と『南雲機動部隊』の巻頭カラーを彩った。「スタートが遅く、限られた時間で結果を出そうと必死でやってきた。魂が宿った乗り物を描き続けたい」と張り切っている。
(ニュース和歌山/2022年10月22日更新)