空き家や空き店舗の増加が社会問題となる中、地域の交流拠点や店に再生する動きが近年、目立っています。和歌山市の北ぶらくり丁と七曲市場を中心に、コミュニティ復活を目指す各地の事例を見ました。

 

北ぶらくり丁 〜「地域を元気に」若者結集 多彩な催し 共同企画

 新顔はケーキにうどん、リンパマッサージの各店。今春にはカレー店とコワーキングスペースがオープン予定と、一昨年から出店が相次ぐのが北ぶらくり丁だ。活気を呼び込む原動力は、商店街と若者がタッグを組んで企画するユニークな催し。商店街の桑島英樹理事長は「地域を元気にしたい若者が集まっている。『北ぶらなら何か面白いことがある』と期待してもらえる、テーマパークのような場所にしたい」と目を輝かせる。

 多彩なイベントの第1弾は、2021年7月から第2日曜に定期開催する「北ぶらリメンバーマーケット」。当初は飲食や雑貨店が並ぶのみだったが、20代の若者が企画に加わって以降、夏は夜店、秋はディスコ風のダンスパフォーマンス大会と趣向を凝らし、来場者を楽しませる。

 昨年4月には、アーケード下にテーブルを並べて朝食を楽しむ「はじめ食堂」を第1火曜にスタート。12月には猿まわしやZ世代の歌謡ショーなど盛りだくさんの「北ぶらリメンバーフェスタ」を開催し、約2000人が詰めかけた。

北ぶらベースで商店街について説明を聞く伏虎義務教育学校の児童

 マーケットやはじめ食堂の実行委メンバーとしての活動を機に昨年11月、美容サロンを構えた榛原(はいばら)雪さんは25歳。「商店街の人に後押ししてもらって私たちのアイデアを実現しているように、私たちも北ぶら、ひいては和歌山から活躍する人が誕生するよう応援したい」と声を弾ませる。

 昨年4月には、空き店舗を組合が買い取って修繕し、地域拠点「北ぶらベース」に。イベントや開業を考える人のお試し店舗ほか、学生が打ち合わせスペースに利用する。長年、商店街を見守ってきた時計・宝石店の店主、平松博さんは「若者の画期的なアイデアや思いを実現できる場所。この動きが加速していけば」と期待している。

 

七曲市場 ~ 令和時代の人情商店街 イベントでリピーターづくり

 プロの料理人や主婦らが通う地域の台所、七曲市場。昨年7月と11月に行われた催し「バック・トゥー・ザ七曲市場」(写真右)が、100年以上の歴史を持つ市場に新風を送り込む。昭和レトロなアーケードの下にキッチンカーやハンドメイド雑貨店が並び、2回合わせて6500人以上が訪れた。実行委員長は5年前、市場内に雑貨店を開いた加地邦行さん。「昔を覚えている中高年と、初めて知る若い世代をつなぐ場に」と思いを込める。

 市場に長く店を構える店主らも盛り上げに一役買う。代々、青果店を営む阪本康仁さんは11月の催しで、お土産にと野菜セット70人分を用意。袋に「七曲の八百屋」と書いたチラシを入れて配ったところ、「おいしかったから」と反響につながった。

「長く続けて市場を盛り上げたい」と駄菓子店を継いだ平山さん

 そんな七曲市場にここ数年、新店が増えている。雑貨店の裏庭スペースにパン店、電器店跡にワンタンメン店、そして開店準備を進める玉子サンド店。注目は、多世代が足を運ぶ駄菓子店で、約20年前に閉じた店を大おばから受け継いだ平山勝也さんが、昨年11月に復活させた。子どもたちのほか、手作りのおでんを買いに近所のお年寄りが保存容器持参で訪れる。店の奥は、市場内の店で購入した料理を持ち込める居酒屋。「この辺りはスーパーやコンビニがないデッドスポット。イベントを機に知ったと訪れ、周りの店で買い物をする親子もいます」

 今春、蛍光灯をLED電飾球へ付け替え、レトロな雰囲気を残しつつ、明るく入りやすい市場を目指す。加地さんは「人と人の関係が希薄になり、何でもインターネットで購入できる現代だからこそ、店へ足を運ぶ時間や人との会話を大切にする『人情市場』として、七曲らしさを出していきます」と意欲を見せる。

 

中心部の古民家活用 ~ ほんまちえんがわはうす(和歌山市北桶屋町)

 本町公園の北隣にある古民家を改修し、昨年3月に完成した。近接する和歌山信愛大学の学生や地域団体と共に子ども食堂や子ども向けイベントを企画。また、寄席やマジックショーといった催しを開き、多世代のコミュニティ拠点となっている。

 

 

 

古い街並み維持へ ~ てっとて~旧岩崎邸(海南市黒江)

 古い町並みが残る紀州漆器の産地、海南市黒江。徐々に姿を消しつつある古民家を残そうと、市民有志が築100年以上の建物を改装し、昨年春、コミュニティスペースとしてオープンさせた。週末を中心に、作品展や各種教室の会場として活用される。

 

 

 

多世代集う2拠点 ~ メリーズハウス喫茶雅園(JR打田駅前)

 打田駅前に昨年、2つの交流拠点ができた。長年、廃屋だった金物店を活用したメリーズハウスは自治会の祭りはじめ、イベント会場に。昨年閉じた喫茶雅園は、同じ喫茶店として復活。平日の昼間は高齢者がいこう場、土曜の夜は近畿大学生物理工学部生が間借り営業し、若者が集まる場になっている。

 

 

 

旧料亭からアート発信 ~ 和歌浦芸術区(和歌山市新和歌浦)

 和歌浦湾を一望できる元高級料亭「石泉閣」を、支配人の廣瀬茂之さんが5年かけてリノベーションし、2019年にオープン。宴会場を改装したシアターホールはじめ、美術館、貸し展示スペースなどを備え、多彩なアートの発信を目指す。

 

 

 

漁師町のシェアショップ ~ オジバ商店(和歌山市加太)

 築120年が経った民家の一画を希望者に提供し、一緒に営業するシェアショップへ改築して8年。常設の飲食店では「おばあちゃん家に来た雰囲気を感じてほしい」と、釜炊きご飯や煮物など、素朴な料理を提供する。また、不定期で雑貨市を開催する。

 

 

 

農家と支え合うカフェ ~ Kamogo(海南市下津町方)

 元JAの建物を利用したカフェ。規格外で出荷できない地元産かんきつを使ったジュース、町内にある豆腐店の豆乳で作ったドーナツが人気を集める。みかんの収穫時期が近づくと、住み込みで働く人を農家に代わって募集。地域社会に根付いた活動を行う。

 

 

(ニュース和歌山/2023年1月3日更新)