恩田雅和さん 『落語×文学』出版

 近現代作家の落語や寄席にかかわるエピソードを和歌山市の恩田雅和さんが『落語×文学~作家寄席集め』(写真下)にまとめ、彩流社から3月22日に出版した。「大衆芸能の落語が、いかに明治以降の文学者に影響を与えてきたか、気づきの一助に」と願う。

落語への思いを語る恩田さん

 恩田さんは慶応大学時代に寄席通いを始め、和歌山放送在職中の1987年から若手落語家が出演する「紀の芽寄席」を主宰。2007年、大阪に開設された天満天神繁昌亭の支配人となり、昨年からは和歌山市の有吉佐和子記念館館長を務める。

 同書には、産経新聞に13年から5年半、隔月で執筆した『落語×文学』と、18年から大阪保険医新聞に毎月連載中の『作家寄席集め』から88編を収録。取り上げたのは、芥川龍之介、横溝正史、星新一ら純文学から推理小説、エッセイまで多岐に及ぶ。江戸川乱歩の小説主人公、明智小五郎のモデルになった講釈師や、落語の影響を感じさせる太宰治、川端康成らの作品を解説した。

 また、南方熊楠は東大予備門時代、同級生の正岡子規らと寄席に通い、『こんにゃく問答』を聞いて、「同様の話がフランスにもある。インドから東西に伝わった話がこれらの原点では」と推察したことを紹介。さらに、手塚治虫が二代目桂春団治から声をほめられ、「落語家にならないか」と誘われた逸話も掲載した。

 恩田さんは「有吉作品にも、落語との関係を思わせる描写があります。私自身、新潟から東京の大学へ行き、落語で癒やされました。熊楠や子規らが落語に親しんだ心情が分かります」と語っている。

 四六判、216㌻。2750円。蔦屋書店和歌山市民図書館ほか主要書店で販売中。

(ニュース和歌山/2023年4月8日更新)