築数十年から100年以上の民家を、テーマを掲げてリノベーションする宿泊施設が増えています。和歌山市雑賀崎の「新七屋(しんちや)」は漁師自らとれたて魚介を出す「漁家民泊」、湊の「シトラスハウス」は「食の体験」「サイクリストに優しい宿」を掲げ、加太の「シアターハウスkonatoko(こなとこ)」は大スクリーンで「映画」を見られます。いずれも古いものの良さを生かした一棟貸しで、それぞれの魅力を味わってもらうことが理念です。
漁家民泊 新七屋
和歌山県北部で初めて漁家民泊として認定されたのが、雑賀崎の新七屋。経営者の池田佳祐さん(36)は漁師の息子だが、一度はサラリーマンとなり、雑賀崎を出た。「漁師を継ごう」と2019年にUターンした異色の経歴を持つ。
雑賀崎も漁師の後継者不足が進む。状況を打開するため、稼ぐ仕組みとして民泊や食堂を運営し年間を通して安定収入を図ろうと考えた。観光と漁業の組み合わせを学ぶため、国内だけでなくイタリアへも視察に出かけたほどだ。
まず、拠点とする築60年余りの民家を宿泊施設に改装。別の築100年以上の建物を食堂とし、宿泊者だけでなく一般客にも水揚げされたばかりの新鮮な魚介を使った食事を提供する。
少しずつ認知度が上がり、宿泊者は22年が約150人、23年は250人以上と増えてきた。
「2年前から磯遊び体験を始めました。今後は一緒に漁に出て、とった魚をさばいて食べたり、近海のクルージングに行ったり、新鮮魚介を使う弁当作りなども考えています。自分が成功例となることで、漁家民泊や食堂をする人が増えるきっかけにしたい」と目を輝かせている。
写真=曾祖父の屋号だった新七屋を漁家民泊の名前にした池田佳祐さん
シアターハ ウ ス konatoko
静かな環境の中、120インチのスクリーンとこだわりのオーディオで映画を楽しんでもらおうと、7月のオープンを目標に改装中なのがシアターハウスkonatoko。加太小学校の南東、山のふもとにある築50年近い一軒家で内装に精を出しているのが、大阪出身の辻昌浩さん(30)だ。
神戸で廃屋再生を手伝っていた際に話が持ち込まれた物件で、見に行くと海が近く自然あふれる環境が気に入った。子どものころ夢中になった秘密基地づくりを思い出し、2022年末から改装を始め、23年夏に加太へ移り住んだ。
シアターハウスにするのは、「自分が映画好きで、映画に入り込める場所が『こんなとこ』にあっったらいいな」との気持ちから。また、加太を訪れた人が友ヶ島や海水浴だけでなく、夕食後に映画を見ながら、「静かな空気感を楽しみ、くつろいでもらえる場」となるよう、「映画に特化した場所をつくることで、加太に新たな魅力を加えたい」と考えている。
鑑賞する映画などは持参してもらう。宿泊だけでなく、シアターとして時間貸しもする。「地元の人たちにも使ってもらえる施設に」との思いを巡らせている。
写真=シアタールームに改装中の辻昌浩さん。スクリーンは奥に設置予定
食の体験 シトラスハウス
日本製鉄の南にあるシトラスハウスは、三宝柑やレモンなど柑橘の樹木に囲まれた築100年以上の古民家。万町の和食レストラン「紀州蔵~粋」オーナーシェフ、村畑圭悟さん(44)が運営する。建物は5年ほど前に紹介を受け、太い梁やゆったりした間取りに魅せられた。だが、コロナ禍で開業を見合わせ、3月に営業を始めたばかりだ。
ただし、ここで料理は提供せず、基本は宿泊者にキッチンを使ってもらう。一方で、「食を体験できる宿泊施設」として、レストランシェフの指導で、かつおのわら焼きや手巻き寿司作り、雑賀崎漁港で共に買い付け、紀州蔵で食べてもらうなど和歌山の食材を使う体験を視野に入れる。
また、紀ノ川河川敷に設けられたサイクリングコースの起点まで自転車で5分ほど。立地を生かした「サイクリストに優しい宿」としての顔もあり、建物内に整備、洗車、駐輪コーナーを設けた。
村畑さんは「古民家に興味があるのは欧米の方が多いですが、和食に関心があるのは香港、台湾などの人が目立ちます。食を目的に泊まるオーベルジュに」と描いている。
写真上=太い梁が魅力的なシトラスハウス。同下=シェフの村畑圭悟さん
(ニュース和歌山/2024年3月30日更新)