地域と学校の結びつきが見直される中、学校再編や夜間中学など、新たな学びの機会が生まれています。2019年4月の就任以来、一貫して「和歌山らしい教育」を掲げ、取り組んで来られた宮﨑泉県教育長に、これまでの手ごたえや今後の展望などについて、小倉一毅記者が聞きました。

先生の成長が子どもたちの学びの充実に

「福祉と一緒に教育を進めたい」と語る宮﨑教育長

小倉記者(以下、小倉) 知る限り、教員出身でない教育長はおられなかったと思います。県職員として培われた経験や視点を、どのように教育の場に生かしてこられましたか。

小倉一毅 ニュース和歌山記者

宮﨑教育長(以下、宮﨑) 教育を知らないからこそ、様々なノウハウを使いながら工夫、勉強し、考えてきました。その上で、まず呼びかけたのが「楽しく仕事をしよう」です。先生方はとても真面目な反面、ハンドルの遊びのような余裕が無いように感じたので、「力を抜いて、ゆとりを持ってほしい」の意味を込めています。

 就任以来考えているのは、先生の力を伸ばすことです。子どもは毎年入れ替わるため、先生も毎年勉強しないといけない。授業をするだけじゃなく、先生自身が興味や専門の分野を突き詰めて学ぶことで、結果的に人間の幅が広がると考えています。いま、教員有志が自主研究会を立ち上げ、テーマを掲げて研さんに励んでくれています。地道な取り組みですが、先生一人ひとりの成長になり、ひいては子どもたちの学びの充実に反映されると期待しています。

注目集める宇宙探究コース

(左)学芸員の説明を受けながら、作品を鑑賞する小学生(県立近代美術館) (右)開校記念式典で、生徒たちが校章・校旗を披露(南紀はまゆう支援学校)

小倉  熊野古道やロケットなど、今年は和歌山が賑わいました。とくに印象に残っていることは。

宮﨑 今年1月、南紀はまゆう支援学校の新校舎が完成し、開校式を行いました。式典では子どもたちが心のこもった歌などで、花を添えてくれました。  

また、和歌山の名がついた「ワカヤマソウリュウ」を皆さんに知ってもらえたこともニュースでしたね。全身骨格がよく残っていて、これから大いにアピールしていきます。

 さらに、今年は紀伊山地の霊場と参詣道の世界遺産登録20周年でした。県立博物館では10カ月にわたり特別展を開催中で、小学生が近代美術館・博物館に来るためにバスを出しています。身近な高野・熊野とその参詣道を、子どもたちを含め、より多くの人に知っていただきたいです。

藤島徹先生(右端)の授業で作成したペットボトルロケット を発射する串本古座高校宇宙探究コースの生徒たち

小倉 カイロス打ち上げで和歌山が全国の関心を集める中、串本古座高校に今年から宇宙探究コースが開設されました。

宮﨑 これは公立高校では全国初の宇宙専門コースで、生徒は全国を対象に募集しています。JAXA(宇宙航空研究開発機構)出身の藤島徹先生や東京大学大学院の中須加真一先生に関わっていただき、特色あるカリキュラムを作りました。いまは1年生しかおらず生徒数はまだ少ないですが、ペットボトルロケットを自分たちで作り発射実験を行うなど、宇宙に興味を持てるような取り組みを進めています。串本発の人工衛星が活用されるようになれば、さらに注目されるでしょう。

 

 

地域と意見交わし教育の在り方考える

夜間中学 県内2校開設へ

県立夜間中学体験授業会の様子(新宮市)

小倉 新宮高校と新翔高校が統合します。地域を巻き込んだ大きな関心事です。

宮﨑 再編で一番大事なことは、地域の声が反映されることです。学校と地域が主体となり、子どもたちの可能性を伸ばそうと検討を重ね、普通科、学彩探究科、総合学科という学科構成を考えていただきました。 小倉 和歌山市では、和歌山北、向陽、星林が1クラスずつ減ります。

宮﨑 中学3年生が200人近く減少することへの対応です。ただ、いずれ学級減では学校を維持できない時が来るかも知れません。大事なのは、「どんな学校をつくるか」について地域と意見を交わし、目標に向けて皆が一つになることです。地域と学校、そこに教育委員会が入って「さあ一緒に考えましょう」と話を進めていくことが大切だと思っています。

小倉 夜間中学が開校されますが、不登校の増加と関係あるのでしょうか。

宮﨑 夜間中学と不登校は切り離して考えています。夜間中学はもともと、戦時中などに学齢期を迎え、学校に通えなかった方などが学びなおしをする場です。また、近年、全国的に外国人の方、また、不登校のまま卒業し、十分に勉強できなかったと感じる方が増えています。そのような方にも門戸を開いていきたいです。  

一方、不登校の状態にある子どもたちは、それぞれ学校に属していますので、いきなり「夜間中学で受け入れましょう」とはなりません。しかし、学びの機会が失われることは避けたい。まず在籍校に通えるのが一番自然ですが、それが難しいなら、次は教育支援センター、さらにフリースクール。家から出かけることが困難な子には、オンライン学習もあります。「いろいろな学びの場があるから顔を見せてほしい」と声をかけたいです。

 一方、人口減少で、地域の子どもたちだけでは立ち行かなくなった学校が、かえって大きな学校に馴染みにくい子どもたちに選ばれている現状もあります。そのような需要を考えると、学校には多様な役割が求められます。

小倉 家庭と教育のかかわりについて、どのように進めていきますか。

宮﨑 教育は「地域・学校・家庭の連携」が大変重要です。それぞれの家庭の悩みは様々です。「福祉と教育は一体」との思いから、福祉と協働することで、両者の垣根を越えた支援を進めたいと考えています。

万博の空気感 存分に体験を

万博の関西パビリオン「大関西広場」 イメージ図(提供:関西広域連合)

小倉 間もなく新しい年の幕開けです。大阪・関西万博が大きな話題です。

宮﨑 1970年の万博の時、小学校6年生でした。外国の方が珍しくて、パビリオンにどんどん入りました。見るもの聞くもの全てが新しく、とても楽しかった記憶がありますね。子どもたちには、ぜひワクワクしながら、会場の空気感を体験してもらいたいです。

小倉 最後に抱負を。

宮﨑 今やっている取り組みをしっかりと根付かせたいと思っています。成果は私個人のものではなく、教育の成果です。これからも一つずつ、着実に取り組んでいきます。

(ニュース和歌山/2024年12月21日更新)