和歌山を熱狂の渦に巻き込みたい
エンターテインメントから新競技として注目を集めるeスポーツ。県内でどんな動きを見せていくのでしょうか。岸本周平県知事と、国内の大会に出場するほどのゲーマーでもある、山本雅史アワーズ社長の二人が、情報や意見を交換。和歌山eスポーツ連合の谷本翔太代表も同席しました。(文中敬称略)
見るだけで熱中
──初めてeスポーツを知った時の印象は?
岸本 6年ほど前、アメリカで流行していると知りました。大学がアメフトやバスケットボールなどに秀でた選手を特待生にするのと同じように、eスポーツでも迎えていたことに驚きました。ただ私は昔、喫茶店にあった『パックマン』で挫折してからゲームはしていないです(笑)。
山本 学生時代はいろんなゲームで遊んでいましたが、社会人になってからほとんどしていませんでした。新型コロナ禍でリモートワークが主になった時、20年以上ぶりに好きだった対戦格闘ゲーム『ストリートファイター』をしました。すると楽しくて。それまでは「スポーツとして成立するの?」と疑問でしたが、そこからeスポーツシーンを追っかけるように。テレビでボクシングやサッカーの試合を見るのと同じ感覚です。
──観戦も楽しみ方のひとつなんですね。
岸本 若い職員に聞くと、ゲームをする人がとても多かったんです。ただ、見るだけでも熱中する人がいるのは意外でした。解説が楽しいとか、おもしろいゲームを集めた動画に見入ってしまうとか。自分で遊ぶだけではないんですね。
山本 従来型のスポーツって、試合を見て楽しみますよね。eスポーツはそれだけではなく、プロが練習風景をネット配信し、その姿を追うことができます。練習中、スランプに陥って苦悩する様子や、泣き崩れる姿。それらを乗り越えて大会で勝利する瞬間。他のスポーツでは知ることができないバックストーリーを見られることで、感動が生まれるのも人気の秘密だと思います。
〝好き〟を伸ばす
──県が始めた「eスポーツわかやま推進プロジェクト」はどういった内容ですか。
岸本 向陽、和歌山北、星林、和歌山工業、粉河の5校にeスポーツ部を置き、ゲーム用パソコンを準備しました。既存教育のように学歴重視ではなく、『好きなもの、こと』を見つけ、挑戦する機会が必要です。『好きこそものの上手なれ』と言われるように、集中して練習し、上達すると自信が生まれます。中にはプログラミングに興味を持ったり、グラフィックの世界に足を踏み入れたり。こんな子を増やしたい。好きなことをしっかり伸ばし、そこから広がる子どもたちの視野を、保護者の皆さんは尊重してあげてほしいです。
──アドベンチャーワールドでもイベントをしています。
山本 eスポーツと動物園の親和性を模索するために、まず、画面上部から降ってくる動物を、崩れてしまわないようバランス良く積んでいくだけの簡単な『動物タワーバトル』の体験会を開きました。子どもたちが「やってみたい」と手を挙げ、家族全員で楽しんでくれました。その様子を見て、娯楽性だけでなく、動物を知る教育的側面もあると感じました。
幅広い世代へ
──今後の展望は。
岸本 勉強にも積極的に取り組むようになった子がいると聞いています。勉強とゲーム、それぞれ時間にメリハリが生まれた結果かもしれません。機材や練習できる環境を整え、高校のeスポーツ部を増やす。そして切磋琢磨してもらうため、今年は私立も含めた県大会を開きます。また、2月に県庁で開催する県内企業交流戦に、県からもチームを出す予定です。
山本 アワーズは、谷本さんが設立したプロチーム、和歌山インダミタブルパンダに関わっています。eスポーツは歴史が浅いので、これからさらに多くの人が応援したくなるようなチームにし、高いエンターテインメント性で、和歌山中を熱狂の渦に巻き込みたいと描いています。
──やはりすそ野の拡大が必要ですね。
岸本 確かに。高齢者にも流行ってきているそうです。昨年の鳥取ねんりんピックでは正式種目になっていましたよ。太鼓の達人をプレーする姿をテレビで見ました。
谷本 昨年11月に橋本市の介護予防イベントにeスポーツコーナーを出しました。私たちが主催する体験会とは違い、その時は普段ゲームを触らない高齢世代の方が、お孫さんと一緒に体験してくれました。指を動かすことは刺激になりますから、今後は県内各地でやっていきたいです。他県には、60歳以上だけのシニアチームがあるんです。和歌山でもぜひ作りたいと考えています。
岸本 それはおもしろい。幅広い世代にゲームを楽しんでもらい、和歌山を『eスポーツの聖地』にしたいですね」
岸本周平県知事
1956年和歌山市出身。桐蔭高校から東京大学を経て大蔵省入省。2009年に衆議院議員に当選。経済産業大臣政務官などを歴任した後、22年の知事選を制し、和歌山県知事に就任。
山本雅史アワーズ社長
1977年大阪府出身。近畿大学卒業後、祖父が創業し、父が社長を務めるグループの建設会社に入社。2004年に、アドベンチャーワールドを運営するアワーズ入社。15年に代表取締役社長に就任。
(ニュース和歌山/2025年1月4日更新)