地元建築士ら 周知に向け見学会開催へ

 昭和レトロ感が漂うJR阪和線の紀伊中ノ島駅駅舎を残そうと、地元住民や建築士らが紀伊中ノ島倶楽部を結成し、動き始めている。今年築90年となる駅舎は、貴重な昭和初期の洋風建築。だが、老朽化が進むことから、JR西日本は「利用状況に適した構造へと変更を検討中」だ。倶楽部の笠木和子代表は「解体・撤去される可能性が高い。そうなる前に、残す方法を考えるため、まず駅舎を知ってもらうことが大切」と4月29日㊋に見学会を開き、広く保存を呼びかける考えだ。

駅舎保存を呼びかける笠木和子さん(左)と谷奥洋さん

 紀伊中ノ島駅は1932年、阪和電気鉄道(現・JR阪和線)が中之島駅として開業したのが最初。35年に、和歌山市駅と奈良の五条駅を結ぶ紀和鉄道(現・JR)和歌山線との乗り換え駅として利用されていた中ノ島駅が約100㍍南側に移転し、現駅舎が建設された経緯がある。

 駅舎は、建物前面にガラスと白い菱形格子がはめられ、ガラス面を通して内部を見通せるのが特徴。倶楽部会員で建築士の中西重裕さんは「第二次大戦中の空襲を免れ、昭和初期の洋風建築がそのまま残っているのが貴重。登録有形文化財にもなり得る」と重要性を説明する。

 このほか、高架になった阪和線ホームの屋根支柱が1900年ごろに八幡製鐵所で作られたレールを使ったもので、2009年に産業遺産として認定されている。しかし、老朽化のため、既に下りホームの屋根は撤去済み。笠木さんらは、「上りホームの屋根も撤去される可能性が高い」と見ている。

 京都出身の笠木さんは数年前、和歌山市に転居。初めて紀伊中ノ島駅を見たとき、「可愛い、素敵な駅」と感じたことが忘れられない。駅舎が存続の危機にあると知り、保存に向け活動を始めた。

 まず、駅舎を耐震補強した上で、カフェや図書室として活用することを前提に、駅舎西側に小規模ホールを含む建物を増築し、テラス席やステージを設け、市民が憩える場を創出。また、和歌山線の線路跡を遊歩道にして約1・2㌔西にある紀和駅の防災公園とつなぐといった提案を昨年7月にまとめた。

 モデルは、旧駅舎をカフェに改修し新駅舎と共存させている紀勢本線の湯浅駅だ。笠木さんは、「紀伊中ノ島の古い駅舎は、徒歩や自転車で市内の歴史的な場を散策する拠点にピッタリ」と強調。昨秋には住民を対象にアンケートを取り、思いを拾い上げた。倶楽部メンバーで市駅前でカフェを経営する谷奥洋さんも「こんな駅舎がそのまま残っているのが和歌山の魅力」と応じる。地元の中之島北ノ丁2丁目自治会長の岡﨑眞太郎さんは「以前、自分たちの地区を知ってもらおうと中之島小学校の子どもたちと街歩きをした時、駅を知らない子がいたのに驚きました。利用しない住民が結構いるためでしょう。地区の歴史を伝える貴重な建物であり、まず市民に知ってもらうことが大切」と話している。

 「単なる反対運動にはしたくない」と考える笠木さんは、「駅舎を保存し、カフェなどを運営することで収益があがれば、街の活性化につながる」と前向きな姿勢を心がけながら、「一旦撤去されてしまえば、せっかくの貴重な街の財産が失われてしまう」と危機感を抱いている。

JR紀伊中ノ島駅駅舎見学会&アンケート報告会

4月29日㊋午後1時40分、同駅舎集合。2時半から中之島会館で報告会。無料。問い合わせは紀伊中ノ島倶楽部(kiinaka1935@gmail.com)。

(ニュース和歌山/2025年4月12日更新)