創業61年、和歌山市祢宜の老舗洋菓子店マニエールが5月25日㊐に閉店する。店内のイートインスペースは近隣住民の憩いの場に、また約30年前からアートを飾るようになり、地元作家の発表の場として親しまれてきた。辻岡成晃店長(72、写真左)は、「気軽に芸術に触れられる場所を提供したかった」、妻の佳代さん(69、同右)は、「お客様と話す時間のおかげで楽しく仕事ができました。感謝しかありません」とふり返る。
パティシエの成晃さんと、兄で社長の辻岡秀浩さんの二人で長年経営してきたマニエールだが、今年1月に秀浩さんが他界。今後、成晃さんが社長業を継ぐか、閉店するかを考え、「ここまで必死に菓子を作り続けてきた。これからの人生を考えた時、健康なうちにやりたいことをしたい」と、61年の歴史に幕を下ろすことを決めた。
1964年10月、和歌山市小松原に1号店をオープン。その後、砂山に移転した後、神前、屋形、紀三井寺、岩出にも出店した。現在残っている和佐店は1985年に誕生。店の一角に机といすを置き、ケーキとコーヒーを楽しめるイートインスペースを設けた。
秀浩さんの妻が日本画を描いていたため、30年ほど前から作品を飾るようになった。これを機に、月替わりでイートインスペースの壁に絵画などを並べ、ギャラリーとして貸し出すようになった。成晃さんは「イベント内容によって毎月店内の雰囲気が変わるのが楽かった。このスペースはいつもにぎやかなので、作品が会話の種になったり、ぐっと近づいて鑑賞したりと、よりアートにふれやすく、親しみを持ってもらえたかと思います」とにっこり。佳代さんは「1カ月という長期間使えるギャラリーは少ないので、よろこんで利用してくれました」と話す。
作家からも重宝されていて、これまで350以上の展示会を開催。リピーターが多く、1年先まで予約で埋まっていたほど。最年少は鳥の写真展を開いた小学5年生、最高齢は押し絵を作る85歳の女性と、老若男女問わず活用できた。
ドライフラワーやプリザーブドフラワーの作家で岩出市の阪口真由美さんは「見に来てくれたお客様と一緒に、ケーキを食べながら話すのが楽しみでした」。4年前から毎年出展している、えんぴつ画教室たらこ主宰の西野一義さんは、「笑顔で迎えてくれる店長や奥さんの明るい空気感が素敵でした。二人とも作品を見て、しっかり意見をくれるのでありがたかった」と話す。
近くに住む川崎美千子さんは常連客で、20年前からパッチワーク展を開催。5月の「布遊び展」が同店最後の催しとなる。「経験を積む場であり、ご近所さんとの井戸端会議の場でもある。かけがえのない時間を過ごせました。次の個展は私にとっても、これまでの集大成になります」と力を込める。
今後について成晃さんは「マニエールの味はなくしたくないと思っています。2人の夢として、自宅のある貴志川町で気が向いた時に開く小さなカフェができたら」、佳代さんは「これまでギャラリーを利用してくれた作家の小物や雑貨を販売できれば恩返しになるかも」と、〝第二の人生〟に向け、期待に胸をふくらませている。
写真=アートに囲まれる辻岡さん夫婦(作品は4月の展示物)
布遊び展
5月1日㊍〜25日㊐。川崎さんがこれまで30年間作ってきたパッチワークのバッグやポーチ、小物など50点以上が並ぶ。午前10時〜午後7時(最終日3時)。問い合わせは同店(073・477・3155)。
(ニュース和歌山/2025年4月26日更新)